朝焼け

2/3
前へ
/27ページ
次へ
「…そうか」  竜樹はそう言って、俺を見つめたまま黙ってしまった。  確かにコメントし辛いよな。抱いた女が実は人魚で、前世は男だなんて。  だけど、本当の俺を覚えておいて欲しかった。  朝日が昇る。  空も海もオレンジ色に染めて。  朝日が目に染みる。  やばい、抑えていた涙が溢れ出した。  その瞬間、手や足の指先が崩れ始めた。 「俺、帰る!じゃ、元気で!」  俺は海に向かって走り出した。  帰れるわけじゃない。人魚に戻れないのだから。  だけど、泡になって消えてしまうところは見られたくない。  なのに、竜樹は俺を追いかけ、腕を掴み、抱きしめた。 「離…せ…」俺はそう言いながらも、本気で離れることが出来なかった。  離れたくない、見られたくない、ずっとこのままでいたい、涙が止まらない。  もう、足に逃げる力どころか立つ力すら残っていない。  波で見えないが、実は足のくるぶしまで泡になって流されている。  竜樹はそっと俺にキスをした。  竜樹の匂い。  竜樹の唇。  泡になってもきっと忘れない。  止まらない涙。  止まらない泡化。  意識が、遠のき始めた。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加