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「…そうか」
竜樹はそう言って、俺を見つめたまま黙ってしまった。
確かにコメントし辛いよな。抱いた女が実は人魚で、前世は男だなんて。
だけど、本当の俺を覚えておいて欲しかった。
朝日が昇る。
空も海もオレンジ色に染めて。
朝日が目に染みる。
やばい、抑えていた涙が溢れ出した。
その瞬間、手や足の指先が崩れ始めた。
「俺、帰る!じゃ、元気で!」
俺は海に向かって走り出した。
帰れるわけじゃない。人魚に戻れないのだから。
だけど、泡になって消えてしまうところは見られたくない。
なのに、竜樹は俺を追いかけ、腕を掴み、抱きしめた。
「離…せ…」俺はそう言いながらも、本気で離れることが出来なかった。
離れたくない、見られたくない、ずっとこのままでいたい、涙が止まらない。
もう、足に逃げる力どころか立つ力すら残っていない。
波で見えないが、実は足のくるぶしまで泡になって流されている。
竜樹はそっと俺にキスをした。
竜樹の匂い。
竜樹の唇。
泡になってもきっと忘れない。
止まらない涙。
止まらない泡化。
意識が、遠のき始めた。
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