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時代が違うのか…
「テトラ、今日は海面近くまで行ってみるわよ」
生まれ変わった俺を見つけたおねえちゃんは、実は俺が入っていた卵を産んだ本人、つまり母親だった。名をエレナという。
エレナは俺の泳ぎの練習に毎日付き合ってくれる。
早く泳げるようにならないと、サメに襲われた時に危ないからだ。
エレナは他の人魚達に小さな俺を紹介してくれた。
皆女性で美人だし、上半身を露わにしているので目のやり場に困る…と思ったが、エロさを感じる事はなかった。
自分の身体が女だから?人魚だから?自分よりずっと身体が大きいから?
もし今自分が人間の男のままだったら…鼻血出してぶっ倒れそうだな。
生まれてすぐよりはかなり成長して大きくなった俺だけど、胸は貧相なままだった。
俺が知っている人魚は、童話の人魚姫か、美しい歌声で誘い船を難破させるという海の魔物だ。
エレナは「昔は歌声で誘って…人間を食べたけど、今の時代そんな事をしたら私達の存在が人間にバレて、絶滅させられてしまう。だから私達はひっそりと海の底で生きるのよ」と教えてくれた。
人魚の主食は魚で、33歳になった年に1個だけ産卵する。
…人間を食べていた頃は、毎年1個は産卵していたらしい。
海中環境の悪化により、人魚が住める区域が縮小されつつある。
産まれた卵も無事かえり、大きく育つかはわからない。
なので人魚の数は徐々に減りつつある。
世界中の海や川に人魚はいるらしいが、きっと他の地域の人魚も同じだろう、と一番年配のシーラが言った。シーラは180歳だが、まだまだ若く見える。
人魚は歌うことが何よりの楽しみだ。
しかし、海の中では歌えない。岸に上がるとその歌声に引き寄せられた人間に見つかってしまうかもしれない。
なので嵐の日に海上に出て、皆で歌いまくる。
それは、人間には海鳴りに聞こえるだろうが、人がなんとなく荒れた海に行ってみたくなるのは、人魚の歌声が聞こえているからかもしれない。
「テトラ、あなたが人間の男の生まれ変わりという事は、誰にも言ってはいけないからね」エレナにソレを告白して以来、何度も念を押してくる。
人間に恐怖を抱く者、興味を示す者…人魚も様々だからという。
海の底で地味に暮らし、シーラが200歳でこの世を去った時、俺の身体は皆と同じぐらいの大きさになり、20歳になっていた。
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