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2.はじめての蔵(2)
「——おれは反対だな。あんな古い家にこどもたちを泊まらせるなんて。スキマだらけで寒いし、どんな虫や動物が入ってくるかしれないよ」
「そんなこと言ってもしかたないじゃない。あなたは泊まりの仕事だし、あたしだって急な出張が入っちゃったんだから。お母さんが入院しているからウチの実家にもあずけられない。だとしたらあなたの実家にあずけるのがいいでしょう?だいたい、いままで一度もこどもを自分の実家につれて行ったことが無いというのがおかしいのよ」
「……それこそ、しかたないことだよ。実家と言ってももう親はいないんだし、妹がひとりで住んでいる家につれていく用事も取り立ててなかったんだから」
「『取り立ててない』ですますようなことじゃないでしょう?ひとりしかいない妹だからこそ仲良くすべきでしょ。なのに、あなたったらぜんぜんあの家に寄りつかないじゃない。あなたたち兄妹は、もともとなんだかヘンなのよ」
「……そんなことないよ」
「とにかく、ふたりはサナエさんのところにあずけるわよ。サナエさんに電話したら『いい』って言ってくれたんだから。二日ぐらいの泊りなら、あの子たちにも春休みのいい思い出になるでしょ」
「——」
父がだまりこくったのを見て、なんだかいやな感じがカナコはしていたのだ。
しかしあずさは、かんたんに
「じゃあ、サナエさん、よろしくおねがいします。あんたたち、おばさんの迷惑にならないように気をつけるのよ。——ああ、あたしもう行かないと。じゃあね、行ってきます」
ただただおなじことばをくりかえすと、家に入ることもなく待たしたタクシーに乗りこみ去っていった。
「——」
気のないようすで義理の姉を見送ると、サナエはこどもたちになにを言うでもなく、だまって家に入った。
姉弟は顔を見合わすと、ただそれについていった。
玄関をぬけると、踏み石と前庭があった。もともとは立派なしつらえだったのだろうが、今ではすっかり荒れて、草木ものび放題だった。
「ねえちゃん、カエルだ、カエルがいるよ!」
ユウジがすばやくつかまえた小さなアマガエルを見せてくる。
「やめな。かわいそうだからはなしてあげな」
「ちぇ」
そんな姉弟のやりとりもまるで気にもとめず、サナエは土間に入ると
「——ええっと、とりあえず夕飯までのあいだは家のなかの好きなところを見てまわっておいて。あたしは仕事があるから」
カナコはうなずいた。
おばが在宅の切り絵作家として生計を立てているとは聞いている。職人気質らしいから、なるべく邪魔はしない方がいいだろう。
「——ただ、あの乾蔵(いぬいぐら)だけには入らないように気をつけて。あそこは古いし、中を整理してないから」
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