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12.ふたたび蔵へ(1)
折り紙細工のトカゲになったカナコは土人形につれられて、なんとか乾蔵の前までたどり着いた。
人形サイズになると見える光景がすべて変わってしまうので、家の中もなにがどうなっているのかわからなくなる。部屋から蔵までのわずかな距離が、とても遠い道のりに思えた。土人形がいなければたどり着くこともできなかっただろう。
「残念ながら、それがしのようないやしい土人形では、蔵の中に入ることはかないませぬ。これからはあなたひとりでお行きなさい。助言したとおりになさるとよかろう」
廊下のかどで見送る土人形に、カナコは
「ありがとう。でも、あなたはなんでこんなによくしてくれるの?」
「——縁(えん)でござるかな。この家の蔵は長いあいだ閉じられてありました。それをあなたがた姉弟がお開けになった。そこには意味があると、それがしは思っております。それにあなたならそれがしが長年、探し求めているものを見つけ出してくれるやもしれぬ、と思いましてな」
「探してるもの?なにそれ?」
「……見つかれば、そのときわかります。期待しておりますぞ」
土人形の言う意味はカナコにはなぞだったが「じゃあ見つけたら知らせるね」と、小さな紙製の前肢(まえあし)でバイバイをして蔵に向かった。
蔵の扉は、昼間のまま開いていた。サナエ叔母はちゃんと閉めなおそうとしたらしいが、閉じがわるくなって、きちんとかみ合わなくなっていたのだ。おかげで人間ならともかく人形が通るには十分なすきまができている。
そこをぬけて蔵の中に入ろうとすると
「これトカゲ、このようなところでなにをいたしておる?」
と、声をかけられた。 けわしい表情で階段とちゅうからにらんでいるのは、昼にも出会った「弁慶」の人形だ。なぎなたを持って仁王立ちだった。
「えっ?あの、中に入ろうと思って……」
「ならぬ、ならぬ。ここは身分とうときヒトガタ様とそのお世話をするものだけが出入りできる蔵じゃ。貴様のようないやしき紙細工が、やすやすと立ち入られるところではないわ」
こういうふうに入ることを断られるだろうとは、土人形に言われていた。
蔵の中の人形たちは身分意識が強くて、おなじ人形でも、粗末な作りのものは蔵に入ることもできないらしい。ただ、それですごすごとひきかえしてはいけないとも注意されていた。
「——今、お蔵の中は忙しいと聞きました。下働きでもよいから、やとっていただけないでしょうか?」
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