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13.ふたたび蔵へ(2)
まさか「千と千尋の神隠し」じゃあるまいし、小学生の自分が「やとってほしい」なんて言葉を口にすることがあるなんて思ってもいなかった。
ほんとうは小学生が働いたりしちゃいけないんだろうけど、そんなこと言っていられない。弟のためにも蔵の中になんとしてでも入りこまないといけないのだ。
今、雛の封印が解かれたことによって、蔵の中はあわただしくなっているはずで、人手、いや人形手(ひとがたで)は足りないはずだ、と土人形は言っていた。
「折紙細工とはいえ、あなたの皮は上等な千代紙ですから、うまくやれば、やとってもらえるやもしれませぬ。だれでもよいのでつかまえて中に入るご努力をなさい。ただし、正体は決してあかさぬように。中身が人間と知られては、あなたもどんな目に合うかしれませんのでな」
土人形にアドバイスされたとおり言うと、いかめしい弁慶人形も少しうなって
「ううむ。上(うえ)つ方(かた)がすがたをお見せになって、たしかにいまはあわただしい。それに節句も直(じき)じゃ。……とはいえのう」
この人形蔵では、桃の節句はむかしの暦でやるのだと土人形に聞いていた。ひな祭はもうすぐなのだ。
「どうしました?」
「おお、これは藤波(ふじなみ)どの」 階段の上から弁慶人形に声をかけたのはひな人形……たぶん三人官女の一人だろう、おすべらかし髪に白衣(びゃくえ)・緋袴(ひばかま)、長柄(ながえ)銚子(ちょうし)をささげ持つ女人形だ。
「この折り紙人形めが、お蔵に奉公したいともうします」
藤波という官女人形は、おっとりとした目でカナコを見やると
「奉公……ふむ。見れば紙人形とはいえ、千代紙で折られたヒトガタらしいのう。上つ方に伺候(しこう)しても、さしつかえあるまい。手も足らぬときじゃ。たすけが多いほうがたすかるのう」
——やった。中に入ることができそうだ、とカナコが希望をもったとき
「なにを、門前でわちゃわちゃもうしておる?」
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