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15.ふたたび蔵へ(4)
人間のときとちがって、このちいさな折り紙人形すがたでは階段を上がるのも大変だった。
藤波はかろやかにぴょんぴょん飛んであがっていくが、中身が人間のカナコはそうもいかず、ふうふう言いながらほこりっぽい階段を上がっていく。
「紙のくせに、なかなか鈍(どん)なトカゲじゃのう。だいじょうぶか」
と官女人形に笑われたが、人間であることを気取られないように
「……芯がけっこう重いんです。すいません」
と、てきとうにごまかした。
二階に上がりきると
「あら」
長持ちに収納されていたひな飾り、ひな道具が、いつの間にか引き出されてならべられている。それを手がけているのは、周囲の棚に置かれていたさまざまな日本人形たちだ。
「ああ、やれやれ。今年はひさしぶりのおまつりでございますねえ」
「ほんに、よろこばしいことで」
かいがいしく動きながら話しているのは、金糸縫取(きんしぬいとり)の衣装をまとった胡粉塗(ごふんぬり)の人形や張り子人形だ。
彼らに指示をあたえているのは藤波と同じ官女人形だった。
「ええい。べらべらと口うごかさず、早(はよ)う手をうごかしゃれ」
鑵子(かんす)(青銅製の湯沸かし器)を手にした官女人形と、三方(さんぼう)(白木で出来た台)を持った官女人形がきびしそうに指示をあたえている。
「やれ、八重(やえ)さまに双葉(ふたば)さま。お気張(きば)りでございますな」
「これは藤波さま。このいそがしいときにいったいどこに行かれて……やや、その後ろにおりますむくつけな紙人形はなんでございますか?」
「これはこのたび、蔵にお仕えすることになりましたトカゲでございます」
「なんですと、そのようなご勝手……」
「若さまがよいとおっしゃいましてな」
「また、あの若さまは気まぐれを……身元はたしかでしょうね?見たところ、そんなに悪いつくりではなさそうだけど」
「ちゃんとした千代紙製です。問題はないかと。今は、なにせ立てこんでおりますからトカゲの手でも使えるのならばそれがよいかと存じます」
「そうさな……姫さま、ようございますでしょうか?」
「——よきにはからえ」
ひなかざりの前にちょこんと座っているのは、あの封を解かれた女雛だった。
大(おお)すべらかしに平額(ひらびたい)の金飾りをつけ、檜扇に十二単のあですがた。ふくらとした頬(ほほ)にきららかな瞳(水晶だろうか?)、すっと引かれた置眉(おきまゆ)がうつくしい。
(——最初に見たとき、だれかににてると思ったけど、いったいだれだったかな?こうやって自分が同じ大きさになると、ぎゃくによくわからない)
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