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17.ふたたび蔵へ(6)
しばらくすると、そんな自分をじっと見つめる人形が一体あるのに気づいた。
赤い腹掛けのみの裸稚児人形だ。仕事をすることもなく、ふくふくとした顔ですわって、新参ものの折り紙人形を興味ぶかそうに見つめている。
カナコと目が合うと、にっことして立ち上がり近づこうとしたが
「あら」
うまく立ち上がることができずに、すてんと転んだ。
おもわずカナコが駆けよって抱きかかえると
「おや?」
どうも、関節部分にほこりがたまってうまく動かないようだ。
「かわいそうに」
ぬぐってやろうとしたが、紙屑では関節の中に入らない。
しかたないのでカナコは自分のトカゲのしっぽの先の方、千代紙が山折りにとがっているところをつかむと、稚児人形の関節にあてサササッとつまったほこりをかきだした。
「どう?」
ためすと、稚児人形はとどこおりなく立てるようになって、とてもよろこんだ。
「ふうふうふうふう」
と、ほおをカナコにすりよせてくる。
「やだ。そんなにされたら、あたしの紙がすり切れちゃうよ」
二体のようすに、まわりの人形たちはすっかりおどろいていた。
そして、おそるおそる「おれの関節もふいてくれないか?」と言ってきた首ふり人形の首のごみをカナコが取ってあげると、ペコペコ頭を下げられてよろこばれた。
どうも、箱の中に入れられず、ただ蔵の棚に置かれていた人形たちは、みんなすっかりほこりがたまって動きがわるくなっているらしい。 そのあとは大変で、ほこりのつまった人形たちが、われわれもとばかりにカナコの前にならんだ。
けっきょくカナコは十体ほどの人形の関節にあったほこりをすべてとりのぞき、おかげでそのシッポはすっかり真っ黒に汚れてすり切れてしまった。
そんなトカゲ折り紙に、お多福人形は
「あんさんは奇特な人形どすなぁ」
と、あきれていた。
どうやら人形たちにとって、ほかのもののために自分のシッポがよごれいたむことをいとわないカナコの行動はおどろくべきことであったらしい。
カナコにしてみれば、この折り紙のすがたは一時の借り物にしかすぎず、人間であることがばれなければいいのだから、気にするようなことではなかったのだが、人形にしてみればたった一つしかなく代わりのきかない自分の体をそんなことでよごすことは考えられないことだった。
とにかく、おかげで人形たちのカナコに対する印象はぐんとよくなった。
「トカゲちゃん。そんな暗いところじゃなくて、明るいところにおいでよ」
と、一番良いところに席をゆずられるほどだ。
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