雨の森の、ピアノ。

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初めて会った時も、雨が降っていた。 まさかこんな森の奥まで迷い込んでくる人間がいるとは思ってもみなかった。大抵は途中で獣に襲われて命を落とす。 あなたの気配はとても穏やかで、とても不思議で、とても特別で、獣たちに襲われなかったのも、何となく分かる気がした。 あなたは私にピアノを聞かせてくれた。 「目は見えないけど耳は良いんだ」と言って、昔からこの場所に置かれていたピアノを直して、初めて音が出た時には私も嬉しくなった。 たくさん聞かせてもらった。あなたの気配が前よりもっと特別になるのを感じて、音が並ぶと音楽になるみたいに、私たちも並んだら何かになれる様な気がして、それは多分、期待をしていたんだと思う。 もしあなたが最初に私の姿を目にしていたら、どうなっていただろう。 私は会うたび少しずつ癒しの魔力を注いだ。 そしてもうすぐ見える様になると知って、だから、もう二度と会わないと決めた。 あれからどのくらい時間が過ぎたのかな。 人間の寿命がどのくらいなのか、私は知らない。 ただ、雨が降ると思い出す。 いつまでもずっと降っていればいいのに。
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