プロローグ

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 拡張型心筋症。  生まれた時から抱えるこの病気は、僕から運動する楽しさも、皆勤賞も、飛行機も、絶叫系アトラクションも、全部奪ってしまった。  10まで生きられるかどうか。そんな余命を乗り越えて、もう6年目。余命を超過している時点で、明日にでも終わってしまう可能性は高い。  大きくなるにつれて、その言葉の重みを少しずつ実感するようになっていった。  僕はお母さんの顔を知らない。僕を産んだその日に亡くなってしまったのだと、後に兄から聞いた。  多忙なお父さんは海外を飛び回り、時に本部と呼ばれる場所に入り浸り、小さい頃にその顔を見た覚えは殆ど無い。  代わりに僕の傍にいてくれたのは4人の兄だった。  12歳離れた長兄・優流(すぐる)は保健体育教師。その裏の顔はシェフ免許を持つ、厳格だけど家族思いの人。  9歳離れた次兄・翔仁(かけひと)は看護師。その裏の顔はパティシエ免許を持つ、手先が器用な明るさとノリが自慢の人。  7歳離れた三兄・光一(こういち)は役者やモデルと色々な面で活躍する芸能人。その裏の顔はお茶を極めた、落ち着きのある人。  4歳離れた四兄・涼也(りょうや)は外国語学部に通う大学2年生。その裏の顔は珈琲を極めたバリスタで、大人しい人。  僕が倒れても、学校で色々とあっても、何があっても傍にいてくれたのはこの兄達で……一時期はお父さんのことを知らない人だと思っていた。  そんな僕の名前は秀真(ほつま)。名前はお母さんが付けてくれたって優流が言っていたけど、本当かは分からない。
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