悪女

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「…ゆきさんの生きざまって…苦労ってどんなことなんでしょうか?」 男は笑った ニヒルな笑みで 「私から言うもんじゃないよ、そういう話はね 直接本人に聞いてごらん」 な… 「おや、もうこんな時間か ママごちそうさま」 男はまたスマートに私の分まで会計を済ませると、出口まで送ってくれた 「じゃあね、気を付けて帰るんだよ」 私は口をつぐんで、視線を落とした 「素敵な顔が台無しだよ、姫」 優しく私の頬を撫でる男 私はその手を払い除けた 男は苦笑すると続けた 「君は人のことより、自分を磨くことに専念したほうがいい そうすれば今より魅力的になれるよ 人と比較する事がどんなに醜くて、自分を小さく見せるか わかるかい?」 男の言葉ではっとする そうだ… 私は… 私は私の為に…ナンバーワンになるんだ… 男はにんまりと口の端を歪めると そっと私の手を握り、裸の一万円札を握らせた しっとりとした、冷たい手 「こんな時間に女性が1人で夜道は危険だ、タクシーを使いなさい」 「…ありがとうございます」 下に降りて振り返っても、男はまだ手を振っていた 一万円を渡されたが、私の家はその半分以下で着く タクシーに乗りながら、私の家、今は愛の家を通り過ぎた 懐かしい我が家 愛は元気だろうか? 私の部屋だった場所に電気は着いていない もうさすがに寝ちゃったかな…? 握りしめた一万円の残りで、明日久しぶりに愛と食事でも行こうかなと、ぼんやり考えてメッセージを打った 目が覚めた頃には見てくれるだろう 昼過ぎ、目覚めると愛から連絡が入っていた 愛:麻衣、おはよう! 仕事は夕方に終わるから、それからなら大丈夫だよ! ってか久々じゃない?全然連絡くれないし… 愛寂しかったぞー! 今日は思いっきり食べて、語っちゃお☆ めちゃめちゃ楽しみ! またメールします♪ それを確認すると微笑んだ テンション高いな…私も楽しみになってきた 了解とメッセージを打ってお風呂に入り、支度した クローゼットには愛…というか麻衣らしい、かわいい服たちが沢山並んでいる 麻衣はスカートが似合ってた 寒いけど、私も頑張ってスカートを履いて足を出すことにした もうよれよれの服着て、レインボーブリッジ封鎖できません、なんて思わせない 夕方 愛からメッセージを受け取ると、私たちは町唯一の娯楽施設であるショッピングモールに出かけた そこには服や雑貨などの他にフードコートもあるので、全てのものが一ヶ所で済むのが何よりの利点だ 久しぶり、と会った愛は 私の外見に合わせてスキニーに、黒い網のボレロとストローハットをかぶって、かっこいい感じになっていた そんな服、私が愛の時には持ってなかったので 多分チェンジしてから愛が自分で買ったのだろう 「服かっこいいね!買ったんでしょ?」 「そうだよー! なんか愛…じゃなくて麻衣が履いてるスカート懐かしい!私のお気にのやつだー!」 「はいてきちゃった…」 お互いきゃっきゃと誉めあうと、フードコートに移動してご飯を選んだ 「あのパスタ屋さんにしよ!」 愛のリクエストでパスタ屋さんに入った お互いパスタを食べ終え、欲張って、デザートで店員さんが歌いながら、ハチミツをかけてくれるハニトーをつつきながら、愛が口を開いた 「最近どーお?」 私はその質問を愛にぶつけた 「愛こそどうなの?彼氏とはどんな感じよ! あ、試験は?どうだったの?」 愛は恥ずかしそうに手で口を押さえる 「えー…別にー… 彼とは順調だよー… 試験はもう終わって、来月あたり結果発表だー! 受かってるといーけど…」 「…愛なら受かってるよ、今まで頑張ってきたじゃん… ねぇ、彼ってどんな人?何やってるの?私も知ってる人?」 矢継ぎ早に質問をする 「いやあ、麻衣は知らない人だよ 職場の先輩 私のこと愛してくれて、優しくて、私がわがまま言っても文句言わないんだよ」 最後のセリフは笑いながら応えていた
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