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出勤してその格好に着替えると、美依さんが出勤してきた
相変わらず、アイラインをがっつり引いたケバい化粧
その後から、ぞろぞろと女の子たちが出勤してきた
みんな気怠そうな顔
「おはようございます」
私は久しぶりに自分から挨拶した
前は私が挨拶するよりも先に、美依さんなんかが話しかけてきたから
私が挨拶してもみんな無視して、その内2人くらいが目も合わさずに着替えながら小さく、おはようございます、と挨拶してきた
無視したやつは、隣の同僚と直ぐ様話しだした
ダルいよね~、まじ帰りたい
うん、ちょーわかる
…だったら辞めたらいいのに
誰も、あんたに来てほしいなんて望んでないよ
仕事が出来ないやつほど、文句や愚痴が多い
その労力を仕事で使えよ
ロッカールームを出ると、真っ黒にストライプのスーツを着たゆきさんが、まさに仕事に精を出してる真っ最中だった
キャリアウーマンみたい
ビジネスに生きる女
その勇姿を見守った
私も負けられない…!
既存のお客さんはともかく、新規のお客さんもバンバン取らなきゃ
いつまでも、お客さんが来てくれるとは限らないんだから
常に常に、新しく
田舎だから、名刺を作る習慣なんてなく、店から渡された空名刺にみんな自分の名前を書いてお客さんには渡していた
私はそれを最近止めて、自分で名刺屋さんに行って名刺を作っていた
スワロが着いた、ピンクのキラキラ、デコ風名刺
ちょっとお値段は張るけど、先行投資だ
それにネイルとか、ネックレスとか、ドレスも…キラキラしたものに囲まれると、自分のモチベーションもあがる
「初めまして、麻衣です」
ピンクのキラキラ名刺を渡す
「うわあ~、可愛い子が来たねえ~!」
足りない
足りない
もっと、新規開拓しなきゃ
今いる人たちだけじゃ、ゆきさんに追い付かないよ…
「麻衣さんご指名です!」
店長の言葉で入り口を見る
よっちゃん…
彼はいつものように澄まして携帯をいじくりながら、勝手に席に着いた
来てくれるのは嬉しいけど、今は指名が煩わしい
私はよっちゃんから見えない位置に移動すると、店長に耳打ちした
「フリーの席にも回して」
「了解です」
この頃から、じわじわと、私は追い詰められていたのかもしれない
相変わらず、ゆきさんは飄々とした表情
キャストに慕われてるわけでもなかったが、数字は叩きだすナンバー1の仕事人間
私は決定的に美依さんとその周りに嫌われていたし、仲間だっていなかった
けどゆきさんには追い付けない
ナンバー2という、下から追われ、上に追い付けない、板挟みな状況に私は焦っていた
キラキラの名刺と笑顔を振りまいて、あくせく働くのに、ゆきさんは毎日違うお客さんと喋っている
私はずっとよっちゃんに頼りきりだ
よっちゃんだって、毎日来てくれてるけど、それがこれからも続くとは限らない
急に来なくなるかもしれないのだ
それに最近よっちゃんが煩い理由はもう一つあった
よっちゃん:寂しい…
よっちゃん:今なにしてるの?仕事終わった?
よっちゃん:ねぇ、麻衣はプラベで遊んでくれないの?
よっちゃん:連絡遅かったね、誰と何してたの?
よっちゃんからは毎日こんな連絡が、バンバンストーカーのように入ってくる
ちょっと返信が遅くなっただけで、もういいと拗ねる
そして私はよっちゃんをあやすために、時間を取る
エースには仕方ないって人もいるかもしれないけど、はっきり言って苦痛だ…
私は美依さんみたいなイチャイチャ色営はしないし、出来ない
そんなわがままなよっちゃんを手懐けるのに苦戦していた
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