悪女

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翌朝、頭痛と共に目が覚めた 冷蔵庫のミネラルウォーターを流しこんで、ざらついた口の中がすっきりした 翌朝っていっても、昼はとっくに回っている 広いリビングはカーテンが開けられ、昼間の高い日差しが部屋の中を明るく照らしていた 眩しい… 西側の窓を開けて、空気を入れる 風が一気に冷たくなっている もう冬が近いのか 静かな部屋で、ソファに足を投げ出して座った テレビでは、サイコロを振る番組がやっている 平和すぎるほど平和だ 今日は久しぶりに同伴の予定もない ソファにごろりと寝て微睡んだ ああ~…久しぶりに出かけようかな… 自分の時間を楽しもう ソファから起き上がって、クローゼットから服を取出して着替えると、早速出かけた 電車に乗って、店がある駅で降りてから 駅前のバス停で、少し離れたショッピングモールに行く はぁ、田舎は何でもかんでも遠いからダルい 服でも見よう そんなことを思いながらバスを降りると、ショッピングモールの入り口に見覚えがある人影 …あれ? 綺麗にまとめた髪 上品なシャツにジャケットをはおって、昨日のスーツよりカジュアルな格好 『ご縁があればまた会えますよ、必ず…』 彼が昨日、バーで放った言葉がフラッシュバックする 彼だ 笑顔で一歩足を踏み出そうとした時、隣に誰かいるのが見えた 綺麗な キューティクルのある、胸まで伸びた髪 スラリと伸びる手足は、カモシカのように細い 芸能人かっ、と突っ込みたくなるような真っ黒いデカサンをかけた彼女は、遠くからでもわかった ゆきさん… 私だけ時が止まったかのような、一時停止したみたいにピタリと一歩踏み出した格好で止まった ゆきさんと彼は親しげに話ながら、ショッピングモールに吸い込まれていった 幸い、どちらも私の存在に気付いてない 一旦は帰ろうかと考えたが、私の好奇心はそれを許してくれなかった カバンから、常備している伊達眼鏡をかけると 私は二人の後を追った ショッピングモールに入ると、2人はエスカレーターに乗っているところだった 私は何人か先に行かせた後、人の陰に隠れて一緒にエスカレーターに登る なんかストーカーってこんな気分なんだな、とかぼんやり思った 2人はそんな私の尾行にまったく気付く様子もなく、どうやらショッピングを楽しんでいるようだった 通路を挟んで反対側で 私も服を見る振りして、2人の行動を観察した 本来の、ショッピングするという目的すら忘れていた だって 2人の関係性がわかるまで、そんな呑気にショッピングなんかしてらんない お客さん…? にしては、やけに馴れ馴れしい感じだし 彼氏だとしても… うーん…微妙だなぁ… 手とか繋いでくれたら…いや、でもわからないな… 2人はとある店でかなり粘って、彼女の服を買っていた その間、私はCDショップで推しの曲を聞き惚れながら時間を潰していた 大きなショップバックをぶら下げて、エスカレーターをまた降りていく2人 私も慌てて2人を追って、下に降りる スタバに入って行くのを見届けると 向かいの雑貨屋で、様子を伺った 品物を頼んで、椅子に座ると2人は談笑し始めたみたいだった そんな様子を見ながら、我に返る つーかここまで来て何やってんだ私… 携帯のディスプレイを見たら、もうすぐ夕方の5時になろうとしていた もう外は薄暗い 結局 私の自由な時間は、ゆきさんの尾行をして半日潰しただけに終わった
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