悪女

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そう言いながら男の表情を瞬時に盗み見る 賭けだ ゆきさんという単語に反応するか 男は垂れ下がった瞳をこちらに真っ直ぐ向けた 秋の澄んだ水面に浮く、命を使い果たした葉のような哀愁漂う瞳の色 「ゆきさん…」 それから彼は眉間に皺を寄せると顎に手を当て、考える仕草をした 「彼女お店のナンバーワンなんですよ」 「お店って、ミスティック…?」 「そうです!なんでですか!? 一発でよくわかりましたね!」 「君…お店ではなんて名前なの?」 「麻衣、です」 すると男は瞬いたように、指を鳴らした 「麻衣!君が麻衣か!」 急に笑顔になった男にびっくりして、どうしたのか尋ねた 「いや、ゆきが話題出すからどんな子か気になってたんだ」 え…? 「まさか君だったとは…奇遇だな…」 「…ゆきさんのお知り合いですか…?」 「愛人てやつ、かな?」 そこで、はははっ、となにがおかしいのか笑いだした なんと相手はあっさりと関係性を暴露したのだった 「そうですか…それでゆきさんは私のことなんて…?」 「ん?新しく入った子で最近頑張ってるんだとか、毎回のように話題にしてくるよ」 …なんだって!? 毎回…あの他人に無関心な彼女が、私の話題を愛人に話しているなんて いや 関心があるからこそ無関心を装っているのか…? 冷酷無慈悲な人形のようなゆきさんにも、人間らしい一面もあったのかと戸惑った それよりも何よりも、私の話をしていることにびっくりした ゆきさん なんだかんだ、私に興味あるのかな…? いつか、追い越されそうな存在だから? いずれにせよ悪い気はしない 「へぇ知らなかったです、店では喋らないし… あ、仲悪いわけじゃないですけど、ゆきさんはナンバーワンだから忙しくて話せないんで…」 そもそも私はゆきさんのことをあまり知らない 生まれ持った恵まれた容姿しか、私はゆきさんを知らないんだ 全て客観的に見ただけの事実 ゆきさんがなんでナンバーワンで居続けられるのか なんでまだ私はナンバーツーなのか 追い抜けないのは、きっとゆきさんの美貌だけじゃない… なにか… ナンバーワンであり続けるだけの、才能があるんだ でもその才能って何だ? 話術?色恋? さっぱりわからない 私に足りないものは、何…? 「まあ、彼女は今まで頑張ってきたからね、えらいよ 私はそんなゆきに惹かれて、バックアップをしようと思ったわけだし…」 遠い目をする男 「最初はナンバーワンじゃなく、ゼロからスタートですからね 私もいつかゆきさんみたいになりたいです」 いつかのゆきさんの言葉をセリフに乗せる 「いい人を見つけてバックアップしてもらうことだね そしたら自ずといい女になっていくよ」 いい女、ってなんなんだろう 「そんな素敵な人、いないな…」 「麻衣さんの指名のお客さんはいないの? 素敵な人は見つけるだけじゃなく、育てるもんだよ その為には、人に尊敬される人にならなければね 魅力ある人にしか、人はついてこないから」
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