美女は醜婦の仇

悪女

男の陰に隠れて、クスクス笑う美依さん

以前、人懐っこく私に話し掛けてくれた彼女の姿は全くなかった

そして、その瞳は敵意に満ちていた

私が彼女に直接何かしたとかではないのだが…

やっぱり、よっちゃんの件がかなり効いているようだった

でも私は悪くない

ただ連絡をしただけ

私を選んだのはよっちゃんだ

私たちは客に選ばれる立場なのだから

｢頂きます…｣

私は小さなレディースグラスに氷を入れ、焼酎と水を入れて乾杯する

しかし男はグラスを持とうとしない

頂きます、と言っても持つ気配がないので
めんどくさくなって、置いたままのグラスに自分のグラスを合わせた

｢お前ダメ｣

男が無表情でこちらを睨み付ける

｢ボトルごと渡されたら、ボトル一本飲むんでしょ｣

は？

どこの世界にボトル渡されたら、一本飲む奴がいるんだよ

ヘルプのお前だけだろ！

悪態を吐きたいが、言えない

席は無情にも店側には見えない死角の位置にある

しかもわざとらしい場内

目の前に置かれた焼酎を暫く見つめた

｢喉乾いたー｣

そこで美依さんが場違いなほどの野次を飛ばす

私はキッと美依さんを睨み付けると、焼酎のボトルを手に持った

あんたたちになんか、負けないから

そのまま口を着け、焼酎のロックを胃へ流し込む

まずい

臭い

ちっともおいしくない

私は息を止めながらごくごく飲んだ

きつい

これどれくらい入ってるんだっけ？

ゴクゴク飲むが、焼酎は一向に減っていかない

くそー…やっぱドラマみたいに行かないか…

私はボトルから一旦口を離した

｢なんだ、飲めないの？｣

男は片方の口を歪めて、バカにしたように鼻で笑った

美依さんは、お酒弱いんだからやめなよー、と半笑い

｢しょうがないなー、飲みやすくしてやるよ｣

そう言うと男は、焼酎をアイスペールにドバドバ入れた

残り3分の1くらいを残して、アイスペールに並々入れられた焼酎

｢薄まったから、飲めるだろ？｣

…なめてる

にやにやする２人を尻目に、私はアイスペールを両手で持った

口に運んで、ごくごく飲み干す

薄いから飲みやすいってもんじゃないよ

焼酎は焼酎だわ…

そのまま根性でアイスペールの中身を飲み干して、２人を見据えた

焦点が合わなくなってきている

残り3分の1残っていた焼酎も、小さくなった氷たちが入っているアイスペールにドバドバ注いで、飲み干した

乱暴にアイスペールをテーブルに置くと、雑に口元を拭う

｢ごちそうさまでした…｣

睨み据えるように２人を見つめて、微笑んでやった

２人は無言で、まるで気味の悪い妖怪でも見たかのような顔をしている

｢お二人はお酒飲まないんですね…？弱いんですか？｣

私はさっき自分が言われたセリフを返してやった

２人はムスッとしながら、氷の溶けて薄くなったお酒を口に付ける

｢お酒なくなってしまったので、頂いてもいいですか？｣

男の眉がぴくりと動く

｢…勝手にしろよ｣

私はボーイさんにメニューを持って来させた
それを男に見せる

｢どのお酒がお好みですか？一緒に飲みませんか？｣

男はメニューを一瞥すると、それを取り上げ、メニューを閉じた

｢ウーロン茶｣

男が言うと、届いたウーロン茶を私に差し出す

｢お前キャバ嬢向いてないよ｣

男は呆れたように、吐き捨てた

私は差し出されたウーロン茶に口付けて微笑む

｢そうですね……向いてないかもしれません

でも…人に、向いてる、向いてないってないと思いますよ｣