悪女

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「お仕事を続けているうちに、不得意も得意になると思うんですよ だから、私は向いてないかもしれないけど、お仕事は得意になってきたかな…」 男はセンターで分けたセミロングの髪をかき分けると、渋い顔をした 「はあ… 今日は美依に頼まれて、お前に仕返ししてやろうと思ったんだよ」 そう言われて、美依さんは真ん丸の瞳に狼狽の色を見せると、慌てて男の名前を言いながら男の膝を叩いていた やはり 美依さんが、私にいじめられたから仕返しして、とでも男に言ったんだな 大体予想は合ってたか 「けどお前 いじめ甲斐がない、つまんねー女だな」 男が頭を掻いて脚を組むと、美依さんは怒った様子でそっぽを向いて、タバコをふかしはじめた 「いらっしゃいませー!!!」 入り口の方から、ぞろぞろと3人の女の子たちが入ってくる 遠目でもわかるくらいの、がっつり真っ黒のラインで囲んだアイメイクに、お尻が見えそうなくらい短いデニムのショーパンを履いた子たち 途端、美依さんはタバコの紫煙を一気に吐き出して、その集団に何か言いながら手をあげた 多分、彼女たち誰かの名前だろう 集団は、奥の団体席っぽくなってる広い席に座ったようだ すると美依さんは荒っぽくタバコを灰皿に押し付けて消すと、お願いしますと、張った声でボーイを呼んだ 慌てたように来たボーイに美依さんは冷たく、チェックで、と言い放った 「おい、どうしたんだよ」 男は美依さんの肩に手を置いたが、その手を振りほどき、忌々しく言った 「使えねぇんだよ、もう帰って!」 そういうと、仕舞に美依さんは携帯をいじくりはじめた 機嫌の悪い美依さんと、必死に宥める男 フォローもなく呆然と見つめる私 結局彼は、美依さんの尻に敷かれていただけなんだな 最初のすごみはハッタリだったのだ そんなやつに無理やり焼酎を飲まされて…いや、指図したのは、美依さんなんだろうな… 会計が終わると、美依さんは男を半ば無理やり帰していた 一緒に見送ろうと立ち上がったら、世界がぐるりと回った 思わずよろめいて、壁に手を当てる 座ってたから、気付かなかったが… まずい… 思いの他、きてる 真っ直ぐ立っていられない…体が言うこときかなくなっている… 美依さんは見送ると、直ぐその団体の方にかけていった 私は頭を振りながら壁伝いに歩く やばいな…どうしよう… そんな私に近づく足音 「麻衣さん大丈夫ですか?」 リズムよく歩いていた革靴が目の前で止まる 髪をオールバックにきめてる店長だ 意識は寧ろ冴え渡っているくらいなのに、頭がぐわんぐわんする 「大丈夫?歩ける…?」 優しく耳元で囁く、タメ口になった店長に煩わしさを感じて、顔を背けた 「大丈夫、水飲めば治りますから…」 ほっといて…そう言いかけて、店長が急に手首を掴んだ 「麻衣だけの体じゃないんだから、無理するなよ」 真剣に真顔で私を見つめる店長 その顔がお酒を飲んでるからか、より滑稽に見える なにいってんだよ… バカじゃねーの?ドラマの見すぎだわ、自分に酔いすぎ そんな悪態を心の中で呟きながら、その手を振りほどいた 「大丈夫ですから、水飲んできます」 はっきりと語気を強めて発言した それでも尚、店長は食い下がる 「麻衣、ここで待ってて コンビニでスポーツドリンク買ってくるから」 ムカつく… 何様だよ、彼氏気取りかっつーの コンビニに走りに行った店長を無視して、キッチンで水を飲もうとした うちのお店は待機席でタバコが吸えないから、キッチンは女の子たちがタバコを吸うたまり場になっている 自分でもわかる程フラフラとキッチンに入ったところで 私のことを絶対によく思ってない、なんなら嫌いだと思う女の子たちがタバコを吸っていたところだった キッチンに入った途端、空気がガラリと変わったように、しん…となった グラスに水を注いでいると、背後から小さな小さな声で誰かが言った 「酔ってるなら帰ればいいのに…」 クスクス… 「だよね、迷惑、仕事の邪魔!」 二言目は完全に聞こえる声音で、誰の耳にも届いた 持っていたグラスを置くと、私は振り向いた 「それ、誰の話…?」 酔ってる私は気が大きくなってるから、スーパー強いぜえ!
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