悪夢

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悪夢

数日後、ゆきさんの言う通り、美依さんはあっさりお店を辞めて行った 何人か無視する女の子はまだいたが、彼女が辞めたことで、おとなしくなった 結局、ゆきさんが問い詰めて、仕事服を破いたのは彼女だとわかったが、過去のドレスはわからなかった… まあ、もう全てが終わった話で、どうでもいい 彼女がいなくなったお店はいがみ合いがなく、かなり平和になった気がした そして、そんな今日は金曜日 いよいよ愛が体入の日だ 詳しく言うと出戻りか…? 私は仕事が終わったという愛のメールを受けると、自宅、というか元は麻衣の家に彼女を招き入れた 「懐かしい…」 愛はキョロキョロと自分の家を見渡した 自室へ通すとお茶を用意して、茶菓子を開いた 中学を卒業して以来、たびたびこうやって集まっては、茶菓子を広げ、ゲームしたり漫画を読んだりしていた その度、麻衣の家は私たちのたむろする場所になっていたのだ でも今回は、でかい手鏡を取出し、雑誌を見ながら、もくもくと化粧を始めた 出勤準備をするために 化粧の仕方や髪型について話ながら、夜の女に変わっていく 横目でチラチラ隣を見ながら、やっぱり愛の顔は化粧しても、なんだかパッとしないなぁなんてぼんやり思った 麻衣の親の目を盗んで、いそいそ出かける私たち 街に出ると今日は週末なだけあって、普段活気がないのに、なんとなく忙しないような雰囲気だ 店に着いて、持参したドレスに着替えると、店長が久しぶりだねと愛に声をかけていた 麻衣になる前、愛でキャバ嬢やっていたことは伝えていた 愛は店長に笑顔を向けてから、すぐ待機席に挨拶していた 律儀だなあ… 愛想振りまいても、彼女たちが助けてくれるわけでもないのに そんなことを思いながら、私も待機に行こうとすると、ゆきさんがまたくるくる動き回っていた 週末はかきいれ時だからね 私も気合い入れなきゃ… ゆきさんと目が合ったが、そこには以前みたいな冷たい空気はなくなっているように感じた あの一件以来、私たちはなんとなく打ち解けてきた けど、それでお互い仲良くなることもなかった 指名本数を競うライバル同士だしね 待機で仲良しごっこしながら、ぱちぱち携帯をしているだけで、ただ時間を過ごしている連中とは一緒になりたくない 勝つことだけを考えて 愛はキャバクラは初めてなので、私が待機である程度の仕事内容を教えた 「席着くときは一緒に着くし、わからなかったら最初はお酒みんなが作ってくれるから、それ見て覚えていけば大丈夫だよ」 「うん」 「合コンみたいに、喋ればいいから」 「うん」 愛は緊張してないのか、私が教えたことを、冷静に淡々と頷いていた 「いらっしゃいませー!」 店長の一際大きい声で入り口を見ると、ずんぐりとした体形のよっちゃんが、また携帯をいじりながら来店してきた 「あの人私のお客さんだから、愛呼ぶね」 「わかった」
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