悪夢

5/12
前へ
/67ページ
次へ
お店が終わった後、店長がいつものようにご飯へ行こうと言ったので、私はなんとなく一緒に行くことにした いつもなら断っているのだが、その日は以前行った店長行き付けのラーメン屋に向かっていた 「久しぶりだよね…麻衣さんと食事 いつも断られているけど、嬉しいよ」 私は無言で微笑むと、メニューを見てお酒とご飯を注文した ラーメンが来る間、お酒とおつまみで乾杯する 「年末で忙しくなってきましたけど、売り上げも順調ですし、これからますます期待出来ますね、麻衣さん」 「…もっと稼ぎたい」 「え?」 「売れたい、一番になりたい ナンバーワンになりたい」 暫く沈黙して、私たちは互いを見つめ合っていた ふと、店長が割りばしを静かに置いて口を開く 「別に人の客だからって遠慮する事ないよ キャバクラなんだから、売り上げ伸ばして、稼ぐのが仕事だからね いいなと思った他の子のお客さんいたら、奪っちゃっていいんだから」 そうだ… そうだった… そうやって、私は 美依さんの客だって、奪ったんだっけ… あの時は、美依さんが目障りで、うっとおしかったから、懲らしめてやろうとして…衝動的によっちゃんにちょっかいをかけたけど… ゆきさんは、不愛想だけど、美依さんみたいなタイプではないから… と言うより… ゆきさんは不愛想だけど…悪い人じゃない… …いや いやいや そんな事を思っていては、勝てない ゆきさんには勝てない 喰うか喰われるか そういう世界なんだ そうしないと生き残り続けることは出来ない 勝つことはできない ゆきさんを抜かすことなど、出来ない 私は ナンバーワンになるんだ 一番に ずっと ずっと 麻衣と入れ替わる前から憧れていた…主役に 欲しいお客さんが来ないなら 奪う キャバクラで売れるようになるには、そうまでしていかないと勝てない これだって、れっきとした経営戦略の一つ ゆきさんと私では、キャリアが違う お客さんの数だって違ったら、売り上げも違うんだよね 愛だったころ ゆきさんのお客さんに、何度かヘルプに着かされていた みんな優しくて、ドリンクを頼ませてくれたり、勝手にお喋りしてくれる楽なお客さんばかりだった でもゆきさんは売れっ子だから、なかなか席につけなくて お客さんはいつも悲しそうな顔をしながら、彼女を目で追っていた 私がお客さんの指名だったら… ゆきさんみたいに席立つことはないのにな… そんな顔する必要もないのにな…って ずっと思いながら、ヘルプをこなしていたんだ そして 何時間もいて、何万も落とすゆきさんのお客さんを欲しいとも… それは今も昔も変わらない 不公平だよ、世の中 私はこんな可愛いくなったのに、欲しいものが手に入らないなんて… 欲しいものは手に入れる 私は変わったんだから 季節を過ぎた華は枯れる 女の旬も一瞬だけ それが過ぎたら、しわしわのババアになるだけ 今が売り時 それから店長に、気になってるゆきさんのお客さんのヘルプに着かせてもらうように言った ゆきさんのお客さんの、寂しいって心の隙間に入り込んで、積極的に誘う 「前、ヘルプに着いた時、ずっとあなたのこと気になってて」 「ええ…そうだっけ…?麻衣さん売れっ子だから着いたことある…?」 「ありますよー!入りたての頃だから、忘れられちゃったかな…その時から気になってました よかったら今週お食事でもいきませんか?」 「え~…いや、はは~…麻衣さんみたいな可愛い子に誘われるのは嬉しいけど、ゆきさんは裏切れないよ~…」 もじもじする客の耳を優しく口元に引き寄せると、低い声音で囁く 「大丈夫… 2人だけの秘密にしましょう…?」 そうしながら、お金がありそうな客や、言うことを聞いてくれそうな客に、片っ端から店外を誘った お客さんも、指名嬢に悪いなんて口では言いながら、なんだかんだで、みんな番号を教えてくれて、私に会ってくれた そしたら、大体バツが悪いお客さんは私指名でお店に返ってくる そうじゃないやつも、ゆきさんにばれたら大変だねと言ってたら、ゆきさんがおやすみの時にこっそりお店に来てくれたりした みんな根っから優しくて、私の言うことも聞いてくれる、お人好しで、いいお客さん いや、都合のいい、お客さんかな けど、ゆきさんにばれないわけもなく… きっと、今思うと気付いていたんだろうが、ゆきさんが私に文句言ってくることはなかった
/67ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加