2.Indwelling

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 幸いこういった思考は杞憂に過ぎず、ドアをノックされることも、蹴破られることもなかった。隈川は濡れた体を拭きながら、溜息を再びついた。が、それは安堵によるものだった。温まった隈川の身体には充足感が宿り、鋭利な創作意欲がやおら湧いてきた。隈川の脳内には取り留めのないアイディアが浮かんでは消えてゆき、その思索の奔走は出口を求めたがって、うずうずとしていた。  隈川は冷蔵庫を開け、一五◯ミリグラムカフェイン溶液を取り出した。蓋を開けると嘘っぽい香料が鼻をついたが、()()()には十分だった。本物のコーヒーは高い税率がかけられているので、彼の経済状況ではなかなか手が届かないのだ。いや、コーヒーばかりじゃない。  この国では、あらゆるカフェイン含有飲料に税金が課せられていた。その理由は、国民の健康を守るためであったり、財源の確保のためであったりした。
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