2.Indwelling

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 彼はそれをいつも通り一・五倍速で再生しながら視聴した。ヘッドギアは常に脳に働きかける。帯状回、偏桃体、パペッツ回路に特異的な電波が付与され、神経伝達物質が駆け巡る。現実と違う事と言えば、共感できる感情が一・五倍の早回しで隈川の心もとい、脳に流れ込んでいくことだった。  そのため隈川は強烈なカタルシスを感じていた。彼は、自身が【集団行動訓練学校】(註・ムニンが開発されてからというもの、学校というのは、学問の場から、社会性の獲得のみを目的とした場へと変遷した)に通っていた頃の味気ない人間関係と、劇中で生徒が繰り広げる壮絶な恋愛と成長とを比較し、眼に涙を溜めていた。  俺もこんな青春を送りたかった、と隈川は声になったか分からぬほどの小さな音で、声帯を震わすのであった。
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