3.Consequence

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 ピンポーン。  その時、来客を知らせるチャイムの音が鳴った。彼は弾む心に倒錯し、忘我的な酩酊を帯びて、相手を確認することもなくドアを開けた。 「警察です。お伺いしたいことがあります」 瞬間、彼は両足の感覚さえ失ったように感じた。  ドアを開けた先に立っていたのは二人の警官で、一人は三十歳ほどの男で、もう一人はいかにも新採用らしき若い女だった。彼等は黒光りするブーツを履き、帽子を目深に被っていた。  その帽子には、権威的な国家を顕す日の丸と八咫烏(やたがらす)の意匠が凝らされたシンボルの金メッキのバッジが、中央に遠慮知らずに貼り付けられている。そのバッジの下縁には、『truth and order bring you peace.(真実と秩序が平和を齎す)』という文科省のスローガンが刻字されている。  隈川は警察官の身につけている物のディテイルを見つめることしかできなかった。視界は定まらず、極度に狭窄していたのだ。それに正常な思考は働かず、脳は現実逃避ばかりをしてしまう。口腔内は酷く乾燥し、言葉を紡ぐことは困難だった。
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