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「あなたが危険物を購入し、それを所持している疑いがあるとの通報を受けました。署まで御同行願えますか」
隈川は同意するしかなかった。彼は忙しなく首を縦に振ることで、抵抗の意思がないことを懸命に訴えた。そのまま両隣を警官に挟まれながら歩き、彼等の車に乗った。
警察署に着いた隈川は出来る限り真実をを話し、弁明もした。最初こそ蚊の羽音のような小さい声だったが、次第に彼は熱を帯びた激しい声で訴えた。
「ほんの出来心だったんだ。それに俺はまだ一文字も物語を書いていない!」
「【創作罪】を犯された皆様は揃ってそう仰ります。それに貴方の場合は、プロットを作っていた痕跡があります。どうか大人しく罪を償ってください。問題ありませんよ。貴方は罪を償った後、【校正施設】で、善良な市民に生まれ変わることが出来ます。そこを出所すれば貴方は以前のような陰鬱な思考回路に毒されることなく、健やかな生活を過ごすことができるのですよ」
と、新卒の婦警が慈愛の微笑を浮かべながら諭すのであった。隈川はその微笑の裏にある苛烈な正義感を感じ、ひどく怯んでしまった。
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