4.Health

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 隈川がふと振り返ってみると、婦警は快活な笑顔を咲かせ、隈川に手を振った。隈川はその時に確からしい青春を感じずにはいられなかった。虚構に青春を求めずとも、求めていたそれは現実に存在していたことに気づいた彼の心はゴム毬の様に弾んだ。  だが、隈川の心の躍動は虚しく、【校正施設】の職員に身柄を受け渡され、やむなく建物の中に入った。外は寒いながらにも朗らかな天候のため、非常に心地よいものであったが、室内は微妙に調整の悪い暖房のせいで不快だった。空気はひどく乾燥し、頭ばかりが温められるような心地がして、隈川の思考は鈍る一方だった。  廊下を歩く三人の足音はそぞろだった。それは、反響の為かもしれないし、彼等の体格の差異から生じる歩幅や足を運ぶテンポが不均衡を成し、リズムを悪化させている為かもしれなかった。いずれにせよ、隈川は先程とは打って変わって、何とも言えない不快感を覚えた。彼は間の悪さが気になったこともあり、こう口を開いた。 「私はこの施設で一体どのような療養を受けるのでしょうか。【校正施設】というのはあまりに聞き覚えのないもので……」
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