4.Health

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 室内には、白衣を着た初老の医者らしい人が、ディスプレイの置かれたデスク――言わずもがなこれも白に塗装されていた――に向かって座っていたが、扉が開くや否や、すぐさまこちらに視線を向けた。医者の顔が白ではなく、ペールオレンジだったのは不幸中の幸いのように隈川は感じた。 「お待ちしていたましたよ。さあ、おかけ下さい」  と、医者は隈川に椅子を勧めた。その椅子さえも白いことは言うまでもない。  療養するにあたって、個人の持つ主観であったり、これまで経験したことなどの情報が必要らしく、隈川はあらゆる事を根掘り葉掘り聞かれた。出身、家族構成、職業、既往歴、これらは大抵聞かれるままに隈川は答えたが、恋愛観や思想について話せと言われると困った。  彼は時に数分ほどの沈黙を挟んだ後に、言葉を紡ぐことも稀では無かった。従って、これらの問診に時間を要したことは明白であり、昼過ぎから始まった問診も、終わる頃にはすっかり日が暮れていた。
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