5人が本棚に入れています
本棚に追加
6.Restructure
隈川は恐ろしい治療を身構えていたが、彼が知覚する範囲においては何事もなかった。一日三回、食後に薬を飲む。プラセボによる副反応を抑制するためとスタッフは言っていたので、隈川は何の薬かが判らなかったことが唯一の気掛かりだった。
体調不良でない限り、一日三十分以上の運動が義務付けられており、隈川は別棟のトレーニングルームでランニングマシンを使ったりして、汗を流した。隈川は、二日に一回ほど校正師に呼ばれ、ヘッドセット――自前のものより随分とごてごてしている――をつけて【共感映画】を見た。
いつも見ているものと比べて然程話の難易度は変わらない筈であるが、隈川は話を理解することが困難に感じた。きっと、環境が変わったことと、等倍速の映像に慣れない為であると、隈川は自ずと結論づけた。
彼は等倍で共感できる感情に、最初の頃はもどかしさを感じたが、次第に慣れていった。
寧ろ、記憶が整頓されているような感覚が隈川にはあった。
最初のコメントを投稿しよう!