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「頑張ってみます……。僕はいち早く社会に戻って国のために頑張りたいんです」
と隈川は述べた。
「ええ、頑張ってください。日記は日付が変更される前に施設の共用クラウドにアップロードしておいてください」
と医師は彼に言うと、校正師と共に個室を去るのであった。
廊下には二人の足音が行き場を失ったかの様に反響していた。
「随分と校正が進みましたね」
と、医師が言った。それに対し校正師は、
「まあ、かなりの紋切型ではありますがね。政府発行の尋常精神アルゴリズムはお利口にしてくれますが、些か気味が悪いですよ」
と答えた。
「ですが、あの程度まで直れば概ね問題ないでしょう。カンジャも三度目の罪を犯しそうには見えません」
と医師は言った。それに対し校正師は、
「どうでしょうね。同時並行で薬物療法による精神改変と、就寝時に校正プロトコル(注・特定のフレーズの刷り込み)を聞かせて、条件付け教育を行いながら、記憶処置を行なったとはいえ、それらが遺伝子に作用している訳ではありません。依然として、再犯のリスクは拭いきれませんよ。いっそのこと、ニュースピークや人間工場があればよかったんですけどね」
と答えた。
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