1.Regressio

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 聞いた話によれば、二回ノックをし、少し間を開けて再び二回ノックすることで、内側から解錠されるとのことだ。隈川にツテを寄越した有識者は、これを自由意志の律音であると言っていた。2+2=4であることを言う自由、古の唱道であるとのことだが、隈川にその意味はわからなかった。只の足し算じゃないか!今時、新生児だって馬鹿にするだろう。  そういったことを思い出しながら解錠されることを待っていると、ドアの向こうから物音が聞こえ扉が開いた。扉を開けたのは中年の男だった。無精髭を生やす、精悍さに欠けた男だった。目つきは鋭く野生的で、いかにも闇商人らしい出立ちだった。隈川は、 「あるものを買いに来ました。知人の話によればここで購入できると聞いたのですが」と、当たり障りのない訪ね方をした。オフラインのワープロデバイスを購入したいという旨はここで言うべきではないと、隈川は判断した。このビルのどこかに監視カメラや、マイクが隠されているかもしれないし、この男が実は商人でも何でもなく、隈川を密告する可能性だってある。
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