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「お前は何を求める?」
と、その中年男は短く尋ねた。開いた薄い唇は乾燥していて、不健康そうだし不衛生そうだった。隈川は会って一分も経たぬ内にこの男のことが嫌いになった。
「真理だ。それは寓意的構造に代弁されなければならない」
まだ、この男のことは信用しきれない。隈川はあくまで抽象的な返答に留めた。
「お前は2+2は何だと聞かれたとき、どう答える?」
中年男はまた質問をしてきた。
――何なんだ、お前まで!いったいこのやりとりに何の意味があるって言うんだ―――
「無論、4だろう」と、隈川は答えた。そうとしか答えられなかった。
「うーん、まあ良いだろう。入りなさい」と、中年男は店の中に招いた。
店内埃っぽく、薄暗かった。様々なデバイスが雑然と並び、どれも古めかしい。
「ここにあるのはどれも五十年以上前の骨董品だ。だから、今の電子機器のように端末使用履歴が政府のサーバーに送られることがない。だからどんなデータが打ち込まれようが、誰も外からじゃわからない。当然、お前がこれを何に使おうが俺は知ったこっちゃない。俺はただ売るだけだ」
と店主は説明した。なるほど、昔のデバイスは国家関連企業でない製造会社のものもある。それなら、オフライン起動も問題ないということか。
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