1.Regressio

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隈川は、幾つかの商品を物色しているうちに、小型のノートパソコン様の機械に目をつけた。 「これは幾らですか」と、隈川は尋ねた。小型のものであれば、隠匿しやすいと考えたためだ。 「それは旧富士通の、二〇三五年製ものだな。パーツも豊富だしメンテナンスにも困らないだろう。十二万円でどうだ」 「随分と高いですね」十二万円と言えば、彼の一ヶ月の給料の六割程の価格だ。買えないことはないが、当分は生活に困窮することになりそうな値段だった。 「駄目なら買わなければ良いだけの話だ。これを買うメリットなんぞ、一般人には何一つないからな。何しろ持ってるだけで罪に問われる可能性すらある」 と店主は毅然とした調子で言い放った。確かに彼の言う通りである。政府非公認デバイスの所有それ自体は、罪に問われることはないが、【創作罪】を犯すものは皆須くしてこれを所有するので、誰かに見られようものなら密告される危険さえある。そんなリスクを冒してでも、これを買う必要が本当にあるのだろうか。
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