1.Regressio

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 隅川は自問自答した。なぜ俺はこれを買いに来たのか。なぜ俺はここに来たのか。なぜ俺は創作をしようと思ったのか。熟考したが、それらしい根拠を自身の胸の内に見つけることはできなかった。  しかし、自身の書きたいという気持ち、すなわち創作意欲そのものは確からしいということも、隈川は悟った。 「買います。その富士通のパソコン」と、隈川は決意を声にした。 「まいど、じゃあ料金をいただこう」店主は、彼に購買意欲があるのがわかると、急に快くなった。 隈川は封筒から金を出し、店主に渡した。パソコンは梱包したものを渡してくれることになった。それもそうだ。包丁を剥身で持ち歩くものなんているものか。  店主はおまけと言って、A4のコピー用紙五枚と、ボールペン一本をつけてくれた。これは隈川も予期しておらず、大いに驚き喜んだ。  ペンも紙も今となっては随分と高くなった。この世に存在する情報が無形メディアにしか載せられなくなってから、いったいどれ程の年月が経っただろう。これらは環境対策の為の課税や、資源の高騰のためと言われているが、本質はそうでないと隈川は考えていた。紙もインクも創作には必要不可欠な代物である。政府はそれを見越して、これらに不当な程に高い金額を設定しているのだ。
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