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 あはは、とミツルと呼ばれた若い男が、スマートフォンのナビ画面を見ながら軽薄な笑い声を上げた。  そこそこ整った顔立ちに甘い声。やや身長が低いけれど、それすらも年上の女性の庇護欲をかきたてるようで、衣食住に困ったことはない。定職につかず女性の経済力に頼って暮らす、いわゆるヒモだ。本人は「これから有名になる俺に先行投資をしてもらってるだけ」とまったく悪びれない。  それでも、二十二歳を過ぎ、大学に行った友人たちが就職しはじめると多少不安になったらしく、動画配信で稼ぐと言いはじめた。その撮影係をやってくれと頼まれて引き受けてしまったことを、車の運転手を務めている和真はかなり後悔していた。数日前に呼び出され、安い居酒屋で珍しく奢られたことが、こんなに高くつくとは思わなかったのだ。 「そんな楽に稼げるわけがないと思うけどな」 「まぁまぁ、やってみなけりゃわからないって」  妙に自信満々なミツルが、助手席でスナック菓子の袋を開けた。座席が汚れるからやめてほしいのだが、押しの弱いところのある和真には強気なミツルを注意することができない。
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