(02)恋している気分

1/1
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ

(02)恋している気分

 悪いがちょっと引いた。私と雨島の間に何もないことは強調しておきたいところだ。仕事の関係以外の関係なんか、かの字もない。なのに何か誤解されるようなことがあっただろうか。私は恐るおそる尋ねた。 「私に……失恋?」 「ちがぁう。いや、違うがちがう」  急に真面目になるなよ、心臓に悪いから! 「ですよね。違いますよね……」  私がごまかすように相槌を打つと、雨島はいやいやをするように首を横に振った。 「感情なんてもんは、二次感情なんてもんは、ほり返せば大抵失恋に変換できる……たとえば僕がきみに怒りを抱いたとしても、その中にあるのは原初の哀しみや寂しさ、愛されない自分への価値のなさを嘆く、ナイーブなものなんだ。だから」 「なるほど」  失恋に置き換わる、という構造を、私は何となく理解した。 「僕が出力しようとする二次感情は、掘れば掘るほどざくざく出てくる金脈みたいなものなんだ。でも副作用もある。たとえば」 「はい」 「きみに恋している気分になる」 「……はい?」 「きみに切なさや苦しみを抱いている気分になる。しかも後ろめたいことに、それを本人には言えない。正直言って、初恋ぐらいの大騒ぎになる。相手のことが気になって仕方がなくなる」  いや今言ってるの何なんだ? 告白? 「はぁ……」 「それに、たぶん誰に説明しても、この金脈掘りは理解されない。きみぐらいしか理解しないだろ?」  いや私も全く理解が及びませんとは言えなくて、仕方なく「はぁ」と相槌を打つにとどめた。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!