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渡が言うには、お母さんから頼まれうちの店まで食パンを買いに来た日の帰り道、ちょっとショートカットしようとしてあの道を通ったらコンビニの横でうっかり転けて頭から一斗缶の中に入ってしまったと。
「それで、いきなりテリトリーに入ってきたってみんな怒ってたから、持ってたパンを渡したんだ。おつかいで頼まれた食パンを2斤まるまる。そしたらこの茶色いところが一番美味しいって喜んじゃって、僕もここが気に入ったしなにより食パンの耳ならタダで手に入るから、定期的にここに来てみんなに配ってたんだ。で、こっちは、僕が飲む用のコーヒー牛乳」
年相応のしたり顔で自慢げに見せてきたのは自分で開けたであろう瓶のコーヒー牛乳。そうやって見せてくるところは小学生らしいじゃん。まだまだお子さまっぽくてちょっと可愛い。
「だからあんなに食パンの耳が必要だったんだ……毎回毎回いーっぱい持って帰るから何かと思ってたよ」
「急にこんなの話しても信じないでしょ、お姉さん」
「ま、まあ」
ふいっと顔をそっぽに向けて、それが理由だよとでも言わんばかりにわたしを突き放す渡。
「渡くんさ、なんでそんな素っ気ないの?お姉さんのこと嫌い?」
「……なんで名前知ってるの」
「え、ああさっき猫たちに呼ばれてたからさ」
あからさまに機嫌を悪くした渡は手に持っていたコーヒー牛乳をこくこくと飲み干してから、どん!と地面に瓶を置いてわたしを威嚇する。
「人のことを尾行したあげく、名前まで盗み聞きするなんてデリカシーがないです」
ぐうの音も出ない。ぐう、と鳴るのは休憩時間に何も食べていないこのお腹だけ。ぐう。
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