みゃあと鳴けばパン屋が儲かる

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「ねえ、ここって猫たちだけの町でしょ?」  頷く長老と他の猫たち。 「その……もっと猫にとって住みやすいように栄えさせたりとか、食べ物を作ってみようとかは思わないの?これだけコミュニケーションも取れるのにあまり栄えてるようには見えないんだけど。魚も取っただけで食べてる子が多いし。人間の世界にいる猫はもっと良いもの食べてるんだよね、だから……その、食パンの耳が流行るのかな〜って、思うんだけど……せっかく猫たちだけの町ならさ、えっと、その、もっと自分たちで美味しいもの作ってみる、とかは?」  黙る猫たち。もちろんプン太も。え、あれっ、もしかして地雷を踏み抜いたかも。パッと渡に目を向け助けを求めるが応答はなし。ダメだ、完全に無視されてる。 「そんなこと!出来てたら最初からしてるに決まってるだろ!知恵のある猫たちは人間の世界に行っちまうし、俺たちゃここで必死に暮らしていくので精一杯なんだ!それに」 「それに?」 「やっとの思いで作ってみたメシも、見た目そっくりなものが急にこの町で流行りだしやがった!それまでは売れ行きもよくて順調だったんだ!この町初めての加工品だぞ!」  あーなるほど。そういう事情があるのか。それはなんか確かに申し訳ない。直接関わっていなかったとしてもちょっと罪悪感が残ってしまう。それなら尚のこと、このままうちの店の食パンの耳が流行り続けるってのもあんまり良くない気がする。わたし的には損はしてないし別に食パンの耳をあげ続けてもいいんだけど、でも。 「じゃあさ、作ってみようよ、パン。自分たちで作ったら食べ放題だよ」  またもや黙る猫たち。そして数秒、数十秒。「うむ」とだけ長老が言うと、わっと猫たちがわたしの元へ集まってきた。 「どうやって作るんだ?」 「まず、なにからしたらいい!」 「ワタシにできることはある?」  みんなが思い思いに話すものだから半分も聞き取れない。ひょい、と猫を抱えて一匹ずつ並ばせてからそれぞれに指示をしていく。聞けばこの世界は猫の寿命に合わせて人間の世界よりも6倍のスピードで動いているらしい。指示を出して任せた小麦部門を覗いてみれば、この世界の小麦のようなものの種子がどんどんと芽を出し成長していっている。これだけ暖かければ本来ならだいたい8ヶ月くらいで収穫できるから、そうだなぁ、こっちの世界なら一ヶ月もあれば収穫できるかな。みんなにもそう伝えるとせっせと働き出した。猫に合わせての時間、かぁ。昔飼っていた猫のチャオを思い出して少し切なくなる。あいつもこのペースで生きてたんだろうな。
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