みゃあと鳴けばパン屋が儲かる

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 それからは驚く程にとんとんと事が進んでいった。こっちの世界のスピードが6倍早いなら、6日間居ても人間の世界では1日しか経ってないってことになる。それでも1日も帰らなければ大問題だろうけど、わりと放任主義なうちの家ならちゃんと謝って上手く誤魔化せば、まあなんとかなるはず。それなら、と腹を括って6日間で教えられることを猫たちに教えていった。  そしてこっちの世界で過ごす3日目。嬉しい誤算が起きた。 「……え?もう育ちきってる……小麦……っぽいやつ」  目の前に広がるのは黄金色の畑の姿。どんなに早くても一ヶ月はかかるはずだったのにどうして。 「お主のおかげじゃよ」  一生言われることはないだろうと思ってたセリフ。え、わたしの、おかげ? 「この世界の均衡がよい方向へ傾いた。流動エネルギーは強く、負のエネルギーは弱くなっておる。それゆえ、植物の育ちが異様に良くなっているんだろう。だから、お主のおかげ、じゃ」  にわかに信じられない話ではあるけれど、喋る猫に歩く猫、料理を作る猫までをも見てしまえばこの話も信じるしかない。 「じゃあもうパン作れるんだ」  とりあえずプン太を呼んで作ってみよう。あ、ていうか渡は?今どこで何してるんだろう。さっきから全然見かけないけど。 「渡ー?」 「呼び捨てにしないでください」 「わっ、びっくりした。ねえ渡は何してんの?家、帰らなくて平気?」 「僕はさっき友達の家に泊まるって連絡したから」 「え、ここ電波通じるの?」 「はい。通じますけど」  慌てて携帯を取り出しお父さんに連絡するわたしを見て渡は少しだけ笑っているようにみえた。 「知ってたなら最初から教えてよ」 「……聞かれなかったので」  嫌なやつ。この生意気め。
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