みゃあと鳴けばパン屋が儲かる

14/18
前へ
/18ページ
次へ
 なにもしない渡に定期的にちょっかいを出しながらプン太を筆頭に本格的にパン作りを始める。ここに居られるのもあと3日。それまでになんとか形にしないと。どうせやるならちゃんとやらないとね、なんたってわたしはパン屋の娘ですから。  とはいえ、この世界の3日間はあっという間に過ぎてく。どんどん集まってくる猫たちに役割を与えて、わたしが居なくてもパンを作れるように教えていく。ちょっと捏ね方を教えただけで1日が過ぎ、形の整え方を教えただけで2日が過ぎた。何をしてもあっという間、息をしていてもあっという間だった。  プン太には焼き方のコツを軽くだけ教えた。元々あれだけ上手く焼けるんだから、大層なことは教える必要はなかった。ただ少しだけコツを教えれば、あとはプン太なりに理解してどんどん焼き方をマスターしていく。 「プン太さんさ、これ」 「なんだこれ」  わたしはエプロンのポケットに入っていた小さな小瓶を渡す。店でも人気のミルクジャム。わたしはいつも賞味期限が近いものをお父さんからもらっては休憩の合間に食パンの耳につけて食べていた。だから自信を持って言える。プン太の焼くカリッと香ばしいパンにはこれが一番合うだろう、と。 「これ、ジャムって言うんですけど、食パンの耳にも合うしここで焼いたパンにも合うと思うんです。プン太さんの焼き加減に、ピッタリだと」 「……ふん。まあ貰っといてやる。今はまだパン作りで手一杯だから。けどそのうち」 「はい。また教えに来ます」  そうして3日が経った。ここに来てからは合わせて6日。わたしとしては少し夜更かしをしたかなくらいの疲労度だけど、猫たちにとってはそうではなく、6日間働き詰めだったのだからこうなるのも仕方ない。作業をしていた広場には朝日が降り注ぎはじめ、ぽてぽてと猫たちが落ちている。そしてみーんな、すやすやと眠りについていた。ほかほかに焼き上げられたパンの匂いとおひさまに当てられた猫の匂い。これらが全て重なって、どこか懐かしさを感じさせる。ああ、チャオが看板猫だったときの、あの空気。そして誰も来ない店の中で店番してる時の感じとちょっと似ている。瞼を重くする眠気に、この匂い。この場を照らす陽だまりのあたたかさ。ずっとここにいたくなる。 でも。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加