みゃあと鳴けばパン屋が儲かる

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「渡、そろそろ帰ろ」  どさくさに紛れて猫に混ざって眠る渡を叩き起してランドセルを渡す。 「んん……なんですか」 「朝だよ、帰ろ」  寝ぼけ眼の渡をおんぶして、長老に教えてもらった場所へと向かう。コンビニ裏にあるのと全くおなじ一斗缶が森の片隅にひっそりと置かれていた。ここが出口で間違いなさそうだ。帰る時もまた落ちるのかな、んー、渡を背負ってそれはちょっと困るんだけど。どうなんだろ。 「ま、やってみなきゃ分からないか」  渡と黒いランドセルの分、重くなる責任。考えていては一生飛び込めない。わたしは何も考えずにええい、と頭から一斗缶にダイブした。 「きゃーって、え……あれ?」  恐る恐る目を開けるとコンビニの裏に渡を背負ったままの姿で立っていた。あれ、あれれ。こんな瞬間移動っぽかったっけ?混乱するわたしに目を覚ました渡が後ろから口をだす。 「下ろしてください。もう大丈夫です。ありがとうございました、ご迷惑をおかけしてすみません。上から落とされたようになるのは部外者が初めて入る時だけなんです。2回目からはほぼ瞬間移動ですよ」  読み上げられたような感謝の言葉。なーんでこの子はこんなにわたしに懐かないのだろう。距離はこの猫的6日間で縮まったように思うのに、未だにこんな様子じゃあ、それももしかしたら勘違いなのかもしれない。 「じゃあ僕は家に帰るので」 「あ、ああうん。また来てよね、店」 「……もう食パンの耳をあげなくても大丈夫になったので行きません」 「あっそ」  最後まで可愛くない。けど、どこか寂しそうな顔をしているのが気になった。生意気とはいえ小学生。自分よりも年下の子がしょんぼりしているのを見過ごしてしまう程わたしも鈍感ではない。 「渡ー!うちのパンさ、他のも美味しいから買いにおいでねー!」  振り返らず、むしろわたしの声を合図に駆け出していった渡の背中はただでさえ小さいのにもっともっと小さくなっていく。 「仲良くなれなかったかぁ」
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