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「いらっしゃいませー!お次のお客様はこちらにお並びくださーい。おとうさーん!フランスパンまだー?あっ、すみません食パン完売でーす」
次から次へと途切れない人の列。みうらベーカリー創業以来の忙しさ。休憩もできない忙しさだけどお父さんは嬉しそうだ。パンを捏ねるその姿もなんだか輝いて見える。
3日に1回、うちの店は大繁盛する。もちろん味は昔から美味しかったし、今でも変わらずに美味しい。じゃあなんでこんなに繁盛してるかっていうと──
「みゃあ」
「きゃーかわいー」
プン太のおかげだ。その図体からは想像できない愛らしい鳴き声と、3日に1回パン屋に現れるという不思議さが話題を呼び地元の新聞にまで取り上げられた。それ以来、プン太が来る日の店内はてんやわんやだ。とはいえプン太だけの力でもない。猫の町をあっと言わせたパンの美味しさ、このみうらベーカリーのパンの魅力にみんなが気づいたってわけだ。うんうん、良かったよかった。そんでもって、この賑わう店内を、喜ぶお父さんの顔を、プン太がジャムを作れるようになるまでの期間限定、にするわけにはいかない。呼び込みに接客、もっともっとわたしも頑張って店を盛り上げなくちゃ。
「カランコロン」
「いらっしゃいま──」
「コーヒー牛乳ください」
挨拶を言い終わるよりも先に口を開くところから見て、渡節は健在みたいだ。久しぶりに見た渡の姿を見てついほっとしてしまう。親に怒られてしまったのではないかとか、本当にもう来ないのかな、とか。こっちもこっちで交流があっただけに色々考えていたのだ。
「コーヒー牛乳の蓋、取ろうか?」
「子ども扱いしないでください。それと、」
もじもじしながら目が泳ぐ渡。ん?なんだろう。おーい。渡〜。心の中で呼びかけながら数十秒を黙って待つ。
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