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わたしはエプロンを付けたまま店を出た。あの子は……あ、いたいた。小さな歩幅ではまだそう遠くへと行けておらず店の前の交差点を渡った少し先を歩いている。エプロン姿の女子高生がソワソワウロウロしているのは客観的に見てかなり怪しいので出来るだけ平常心を保ったまま「決して尾行なんてしてないですよ」と一般人を装いながら、ランドセルを背負った純粋無垢な小学生の後ろをつけていく。まあ、あの子が純粋無垢かどうかは分からないけど。あんなに素っ気ないし。あ、これはただの八つ当たり。
無垢かどうか分からない名も知れぬ小学生はどんどん歩いて知らない道を進んでいく。まずいなぁ、このままだと休憩時間過ぎちゃうんだけど。引き返したい気持ちとこのまま尾行を続けたい気持ちが拮抗する。んー、最悪怒らればいいだけだし、ここまで来たんだから引き返すのも勿体無いしなぁ。
「まあいいか、名前くらい聞いて帰ろっと」
もう一度覚悟を決めて尾行を開始する。追いかけるかどうかを悩んでいる間に開いてしまった距離に、わたしは焦って小走りになる。あそこのコンビニに入られたら確実にバレるから今日はもう諦めよう、そう思ってたじろぐわたしを笑うかのようにあの子はコンビニの横をくるっと直角に、綺麗な90度で角を曲がりコンビニの裏へと消えていった。それもどこか浮つくような足取りで。
「へ?どこ?」
目の前には乱雑に置かれたダンボールとゴミ箱、そしていくつも積まれた一斗缶。
「え……なんかこれ光ってない?」
あからさまに怪しげに光るひとつの一斗缶を覗き込んだ瞬間、目の前が真っ白になり身体が浮遊する。えっ、なになに。こんなのまるで不思議の国のアリスじゃんか。アリスさながらどんどんと落ちていく時間の中でだんだんと思考は冷静になっていく。そうか、あの一斗缶の中からどこかに行く途中だったのか。それを知らなかったわたしは見事こうやって落ちて──
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