みゃあと鳴けばパン屋が儲かる

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 あれよあれよと猫たちに歓迎されてお茶や小魚っぽいものを献上されるわたしを渡は少し離れたところから様子を伺うようにして見ていた。お茶はともかく、この生の小魚は……食べられないなぁ。どうしようか考えていると渡が袋を手渡してきた。 「いや……別に嫌じゃないけど、なんかこう、自分の店の食パンの耳渡されても」 「人からの好意は受け取るものって教わらなかったんですか」 「……はいはい」  そのうち好意の押しつけは迷惑だとも教わるもんよ、小学生くん。だいぶパサパサになった食パンの耳を齧りながら猫たちの話を聞く。今日はあの池が良かっただとか、あっちで誰と誰がケンカをしてるだとか、そんな猫的にたわいもない話を延々と聞かされ、そろそろ仕事のことが気になってきてしまう。あー、今頃お父さんめちゃめちゃ怒ってるんだろうなぁ。帰るのが非常に、とても、憂鬱だ。 「それにしても、こんなに美味しいものを作れるなんて人間ってのは凄いですねぇ」  一匹の長老らしき猫がわたしに話しかけながら横に座った。えっ、小さ……そう口には出さないけれど、子猫ほどの小ささのその長老は座るとさらに小さくなり、思わず撫でてしまいそうになる。けれど他の猫よりも物腰が柔らかく話し方も丁寧で、この小ささからは想像もできないほどのオーラを放っていた。ついさっきまで飽き飽きして必死に欠伸を我慢していた世間話にも耳を傾けてしまう。 「あ、いや……作ってるのはわたしの父なんですけどね。でも、ありがとうございます」 「食パンの……耳と言いましたでしょうか。これがこの町では随分と人気でして。みーんな、これの虜なんですよ」  そう言われ辺りをぐるりと見渡せば確かにこの場にいる猫たちが一匹残らずうちの店の食パンの耳を食べている。パン屋の娘的には、もっと本体の方にも興味を持って欲しいところだけれど、お父さんいわく「食パンの命は耳にあり」らしいのでこれはこれでいいのかもしれない。  長老と少しのあいだ、世間話をしているとなにやら奥の方がザワザワと騒ぎ出した。一体なんの騒ぎだろう。どうか厄介事を持ってきませんように……早く店に戻れますように……そう祈るわたしの願いも虚しく、一匹の猫が大声で叫んだ。 「大変だー!!プン太が暴れながらこっちへ来るぞ!みんな逃げろ!!」  えっ、なに?プン太?誰? 「パン屋のお姉さんや、こちらへこちらへ」  長老に促されるまま茂みに隠れ息を飲む。隣では渡も小さく丸まりただじっと様子を見ていた。 「おい!コノヤロウ!出てこいパン屋!お前のせいでめちゃくちゃじゃねえか!!クソー!どこだー!」
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