守りたいもの

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 千風は屋敷により強力な結界を張ると、戦装束に着替える。鎧と剣は重たくて、まるで里の者の命を背負っているようだ。私は剣の腕がからっきしである。それ故、天狗の妖術などを駆使するしかない。手始めに、腕に嵌めた呪具に妖力を注ぎ込む。 「お願いだ。六合殿、来てくれ!」  陰陽師との盟約をこんなにも早く使うとは思わなかった。成功するだろうか。不安になりながらも必死に願う。腕輪の翡翠が光ったと思うと、千風の目の前に武家姿の男が顕現する。 「お久しぶりです。天狗の長殿。俺の力がお必要ですか」  千風は無事に召喚できたことの安堵に、深く息を吐く。良かった。十二天将が力になってくださるのならこの上ない。 「はい。六合殿、お力をお貸しください!」  千風は頭を下げて、六合に頼み込む。六合は勿論と首を縦に振った。それから千風は今までのことを簡潔に話す。六合は聞き終わると、顔をしかめた。 「先日の関ヶ原でも似たようなのを見ましたね。ということは、敵は関ヶ原にいた外法師かその関係になるかと。道満……天狗……まさか」  心当たりがあるのか、六合殿の顔がどんどん険しくなっていく。もしかして叔父を知っているのだろうか。 「ともかく、今は敵を追い払うことが重要です。私と共に着いてきてください」 「承知いたしました」  松風や六合殿と屋敷を出ようとした時、出口に佇んでいる小雪殿を見つける。小雪殿は私を見るなり、小走りで駆け寄ってきた。 「千風様、皆を無事に此方に集めました」 「ありがとうございます、小雪殿も門を閉じて出ないようにしてください」 「はい……」  小雪殿は小さく頷くが、瞳は不安で揺れている。そんな彼女を安心させるように抱き締める。己の腕の中の彼女は震えており、この方を置いていくことに後ろ髪を引かれる思いがした。名残惜しいまま離れると、小雪殿が懐からあるものを差し出す。それは私が愛用しており、小雪殿が霞の指導を受けながら作ってくれた琵琶の撥であった。 「御守り代わりにこれを持って行ってください」  御守りとして撥を持っていくなど変わっている。だが、私と彼女らしい御守りだ。千風は受け取ると、懐にしまった。 「ありがとうございます。行ってきます」  許嫁に背を向けて敵の居場所に向かう。懐の撥が確かに私を守ってくれているようで、それまであった不安や恐怖が多少は和らいだ。
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