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私が兄よりも誇れるものがないとは思っている。だが、多少は妖術の自信がある。崩壊寸前の結界の欠片の雪が降る中、千風は低い高さで飛ぶ。松風はその隣を、六合は地上を疾走する。
「長殿、何か策はございますか」
「奇襲は初めてなので、あまり思い浮かびませぬ。ですが、ひとつだけ策があります」
これが通用するのかは分からない。だがやる他ない。私は皆を守らなければならないのだから。
「結界をわざと砕かせて、張り直すのです。結界の中では我らに敵意あるものは弱まります。兄の時のように、一部でも穴が開いてしまえば、効能が薄まりますが」
その為に必要なことは、結界を張り直している間に里に化け物どもが侵入しないように防ぐこと。そして結界を内部から崩壊されないように、敵を殲滅することである。
「結界はどのように張るのですか。主達は、祝詞や真言を口にして神仏の力を借りますが」
「似たようなものです。神の力をこの身に宿して結界を張ります。問題は結界を張るのに適切な瞬間を見極めることですかね」
恐らく、今までで一番難しい仕事になるだろう。怖い。喉がひりつく。
見え始めた結界の外側には、黒く蠢くものがいるのだから。凩達がそんなもの達と戦っている。恐れている場合ではないのに、指が震えてしまう。そんな私の指を松風の手が包み込んだ。
「長、私がいます」
「ああ……。松風、ありがとう」
お前が傍にいるのに、怖がってはいけないな。千風は面の下で微笑むと、結界のすぐ近くに降りる。結界は今にも崩れそうだ。
「皆、良くやった! 内側まで引け!」
千風が大声で命じる。すると皆は一斉に引き始めた。後は崩れるのを待って再構築すれば……。千風が神降ろしの義を始めようとした時、凄まじい殺気を感じた。
「甥っ子くん。見いつけた」
玻璃が砕ける音と共に黒い人影が飛び込んでくる。千風が気づいた時には、目の前に男の嗤う顔と鈍く煌めく輝きがあった。
「長___!!」
松風の悲鳴が耳に飛び込む。これは駄目かもしれない。そう悟りつつも腰の剣を抜く。だがもう遅い。千風の首に鈍い煌めきが迫る。千風が呼吸を忘れた時、耳をつんざく金属音が響いた。
「凪、いい加減にしろ」
冷たい声が千風の耳元からする。千風はその声で、六合が千風のすぐ後ろから守られたことに気がついた。
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