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濁流のように溢れる敵を必死に風の刃で斬り伏せていく。結界は崩壊寸前。六合殿は優勢に動いているようだが、衣が裂けて傷があちこちに見える。松風は、六合殿に襲いかかろうとする叔父以外の敵を斬っているが、血を流している。私も、団扇を持つ指の感覚は薄れ、腕やに傷を負っていた。足の骨ごと噛み砕かれたので、上空から地上に迎撃を行っている。
「兄上……」
兄上だったら、こんな敵など一撃で仕留めたであろう。兄上のように流星の如き破魔の矢を使えたら。生憎私は弓術も下手くそだ。この団扇を用いて、里に向かおうとする敵を殺めることしか出来ない。それにこの団扇は妖力の消耗が大きい。ああ、下手くそでもいいから鍛練をもっとするべきだった。千風は歯噛みする。もう飛ぶのも辛い。
「長よ。大丈夫ですか」
松風とさほど年が変わらぬ者が心配そうに私を見る。私は大丈夫だと笑った。
「敵はあの男を縁に現れていると私は見ている。あれを討たんことには意味がないだろう。今は地にいるが、空に上がりそうになったら天将殿とて追いつけぬ。警戒せねば」
来ようと思えば、飛んで私を殺せる。それをしないのは、叔父の興味が六合殿に向いているからだ。それに飛んでいる敵も無数にいる。手下に私を殺すように命じているのかもしれない。こうなったら、神を降ろすか。結界どころか、戦いまで神にお任せすれば負荷がかかるが、それを躊躇う訳にはいかない。そう考えた時、敵から生じた矢のようなものが同胞の頭を貫こうとしていた。
「っ……! 危ない」
同胞を庇って団扇を使おうとしたが間に合わない。万事休すか。千風が目を瞑った時、腕の呪具が熱くなる。そこから熱い神気が流れ出して、私を覆った。
「ぎりぎり間に合ったようだな」
男の声が目の前から聞こえる。恐る恐る目を開くと、赤に金が混じった綺麗な髪が風に靡いていた。
「騰蛇殿……?」
兄上と凄まじい手合わせを行い、引き分けになった方。どうして此処に。千風は驚きのあまり、面の下でぽかんと口を開けた。
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