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SNSの注射器
キーンコーンカーンコーン━━━━━━
6限目終了のチャイムが鳴り響いた。そのチャイムが、美影優にとっては「始まり」のチャイムであることは、もう言わなくても分かるであろう。
チャイムの余韻が完全に失せた瞬間、窓の外を眺めていた美影優の後頭部に何やら重い衝撃が走った。
美影優は、後ろを振り返りながら、衝撃を食らった所に手を当てる。
美影優が、後頭部を抑えた右手には、黒に染まった紅色の血が纏われていた。
何故か分からないが、その色が、「善人」なのか「悪人」なのかを分ている気がしたのだった。
そんな事を思いながら、美影優は血の足りなさを感じた。目が自動的に閉じられていく感覚がある。
薄れ行く世界を見ながら、もしかしたらこのまま死ねるかもしれない、と初めていじめられていることに感謝したかもしれない瞬間なのであった━━━━━━━
遠くで何かがうごめいている。シルエットだけが今、美影優の目には鮮明に映し出されている。そしてそれが、だんだん近く近くなってくると共に、シルエットが、その形がくっきりと姿を現す。
そこには、1本の━━━━━━
「注射器?」
その言葉を聞いて、美影優は跳ね起きる。美影優の目に映し出されたものは、1本の太い注射器であった。
ふと首を触ると、手が汗を浴びていた。美影優が眠っていたベッドにも、多量の汗によるシミのようなものが出来ている。
「注射器なんて流行ってんの?もういよいよ世も末じゃん!」
「そんな事ないよ!今のSNSの流行りはこれなんだって!」
「嘘つけよーー!」
キャピキャピとした女子の声が響いているのが美影優の耳に入る。
こんな話に飛び起きてしまったのかと美影優は頭を抱えてしまう。頭を抱えた手も、汗に濡れていた。
途端に、ガラガラと横開き式の扉が開いた。
扉を開けたのは、知らない女子だった。
うちの学校の制服を身につけているため、恐らくこの学校の生徒だろう。
それにしても顔立ちが随分大人びているというか、単純に綺麗だ。
ボーイッシュな顔面に四角縁の眼鏡をかけ、色は紫。顔面のせいか、女の子らしいロングヘアを纏っていても、第一印象は、格好いい。という事に変わりはない。
美影優は考える。どうしてここに来たのか。冷静に頭を回転させる。美影優がふと目線をやった開いた扉の先に「保健室」というプレートが、扉の上ほどに取り付けられていることに気づいた。
美影優は腹から声を出すようにして、言う。
「あ、ごめん。もう出るね。」
この学校の保健室には訪れたことが無かったが、なんとベッドがたったひとつしか置かれておらず、このように怪我人や体調不良人が複数存在すると交代しないといけないのだ
さすが底辺高校寺ーである。怪我や体調不良くらいで保健室に来るなという意味なのだろうか。それならば明らかに重症なのは美影優である。(入ってきた女に表面的な傷はない。)
そんな事を思ってしまう自分にも、少し嫌悪が走る。
入ってきた女は、1つ溜息をついて、こう言った。
「アンタ、いじめられてるでしょ?」
「は?」
美影優は思わず聞き返す。まだ腹に力が入っていたようで、まるでミュージカルのような場違いな声が出てしまう。
「だから、いじめられてるでしょって。」
「え、なんで?」
「はぁ……マジだるい。今の自分の外見分かってる?」
と言って美影優に手鏡を渡す。
美影優は自分の顔面を見て、仰天してしまった。
美影優の顔には、ほとんど地肌が残されておらず、全てが黒紅色の血に纏われていたのだった……………
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