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美しい雪が薄汚れた景色を まるで浄化しているかのようだった。 雪美が死ぬ直前まで見ていた景色。 音の無いセカイ。 『時間が無い』って…… もしかして自分の生きられる時間を 雪美ははじめから 知っていたのかもしれない。 真冬だってのに 頭の中でせわしなく蝉が鳴いた。 残りわずかな命を 削るかのように激しく……。 視線をぼんやりと 窓から壁に掛かる鏡へと移す。 鏡には卒業生寄贈と 金色の文字が入っていた。 そこには厚いメガネこそかけてないまでも ボサボサの長い髪に 今時珍しい猛勉タイプの地味女が 映っていた。 あれ? これがアタシ? 女子としてアウトだろ。 これって……誰かに似てる。 アタシは力なく笑った。 来未の言葉が頭をグルグル回った。 来未は言った。 私はそんな話を信じてなかった……と。 単なる都市伝説のたぐいだと思っていたと。 でも自分の友達が104に選ばれる事になって ずっと心配してたんだと言ってくれた。 このアパートはいわゆる心理的瑕疵物件。 この場所で人が亡くなったりした ワケではない。 けれど、説明がつかない 奇妙な現象が続く為に 入居者が定着できない物件だったという。 だから、一般の居住者では 借り手がつかない。 お盆の頃から在校生に混ざって 彼女はこの寮に戻って来る。 部屋は決まって104号室。 その部屋に入れるのは 彼女に選ばれた人。 1人だけ。 そこで彼女と一緒に 受験勉強をする事になる。     
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