邪鬼は桃の花から逃げられない

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邪鬼は桃の花から逃げられない

姫君の命を狙うのは、我がそう作られた邪鬼とはいえかわいそうだなあと思ったよ。しかし、一番邪鬼の力が強くなる奇数が揃う3月3日の夜、満を持して送り出され、姫君の寝所に潜り込んだ。 暗いし、顔が反対の方をむいていてよく見えないがこれが姫君だろう。姫君の首に手をかけたその時、かすかに甘い匂いが鼻をついた。手から力が抜けて緩む。それでも姫君の首をつかみ直そうとした。誰かが床を踏むの音が聞こえる。 我の真後ろ、部屋の入り口に誰かきた。落ち着け陰陽師でなければ我の姿は見えぬ。早くやらねば。もう一度姫君の首に力を込める。するとバキッと何かが折れる音がして、我の頭の上からハラハラと細かいものが降ってくる。さっきの甘い匂いがさっきまでと違い強くかおる。途端に掴んでいたはずの姫君の首は無くなっていた。 しまった!罠か! 「君が姫君を呪っていた邪鬼かな」 その声がする後ろを振り向く。そこには白髪の男が立っていた。切長の目がこちらをみて笑っている。このような状況でなければまじまじと見ていたい綺麗な顔だった。 その手には太刀を持っているが、服は貴族が着るような豪奢な衣装だ。その場にそぐわない姿が異質だった。何より明かりもないのにはっきりと姿が見える。 我と同じ人ならざるもの。否、我より確実に強いものだと感じた。逃げねば、この者は我を消せる。 「ねえ、待って」 逃げている我は後ろから聞こえてくる声を無視した。寝所を出て屋敷の門をくぐり抜けた。しかし声は足音と共に背後にピッタリとくっついてくる。ぐるぐるとかあたりを駆け回るが離れない。最後の切り札と、帰路である橋を渡る。後ろを振り向くと男は橋の手前で根が生えたようにピッタリと止まり進めなくなっていた。
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