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序章
「…それで?無駄話はいいからさっさとお前の予知を聞かせろ」
その日、東京郊外の森の奥深くに位置する神社の鳥居に背を預けながら一条湊は携帯端末を片手にそう吐き捨てた。
「えー?教えても良いけど…今度京都にも来てくれる?」
「…東京から動くと親父が煩いんだよ。お前も知ってるだろ」
湊は一瞬言葉に詰まったが通話相手にそれを悟られないよう気を付けながら口を開いた。
「そもそも俺に会いたいならお前が東京に来いよ」
その方が都合もいい、と続いた湊の言葉に通話相手は苦笑を返す。
「…それは無理があるでしょ。俺が京都から出るなんて本家が許すはずないし」
「此方だって状況としては似たようなもんだ。でも、まぁその話は対策を考えとく。仕事だって言えば彼奴も文句は言えないだろ。京都の連中には、貸しを作っておいて損はないからな」
「…じゃあ、その条件で契約成立。俺の予知を読み上げるよ」
湊は予知の内容を一字一句聞き漏らさないよう気を引き締めた。
「…来る二月二日、東京。厄災の前兆を感知。なお、その際稀有な訪問者有り…どう思う?」
「明らかに異常事態だ。京都で行った予知で東京の災いを感知するなんて滅多にない。それほどの力なら東京を越えて京都まで災禍が及ぶ可能性もある…本家に報告は?」
「一応したけど…ひとまず様子見だって。所詮は対岸の火事だとでも思ってるんだよ。人が折角忠告してあげたのにさ」
「なるほど。それで今は京都から出られないのか」
今回の厄災が東京だけで済めばそれでよし。態々京都の人間が首を突っ込む必要はない。つまるところ、できる限り面倒事に巻き込まれたくはないというのが本音なのだろう。
「それもあるし、本家としては俺が京都を去るのがよほど怖いんじゃない?京都にはもう主戦力として使える人材なんて殆どいないから」
「そういえばそうだったな、まぁ今回の件は可能な限り東京で対処する。稀有な訪問者ってのが気になるところではあるけど…」
何とかなるだろ、となげやりな返事をして湊は電話を切った。
(二月二日か…今日が一月二十日だから十三日後だな)
二週間もない猶予に湊は爪を噛んだ。
(彼奴の予知は必ず的中する…しばらくは此処も動けねぇし…)
予知内容が正しければおそらく数日以内に稀有な訪問者とやらがこの神社を訪れることになる。まずはその来訪を待つ必要があるだろう。
「鬼が出るか蛇が出るか…どちらにせよ大きな仕事になるな…」
湊は街の景色を一望できる神社の鳥居に背を預けながら咥えた煙草に火をつけた。
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