第364話 支配者

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◇  ◇  ◇  ◇  ◇ 「じいちゃん!」  遥は女児妖精3人と共に、シャルロとモンマのもとへ駆け付けた。法力枯渇で動けないはずのエシャーの姿が見当たらず、遥は慌てた声でシャルロに語りかける。 「エシャーちゃんはどこなん! モンマ!」  ポカンと空を見上げていた男児妖精も遥の声に気付き、振り返った。 「あっ……ハルさん!」 「おお! ハルカさん。御無事じゃったか。……ウチの連中は?」  シャルロは駆け寄って来たメンバーを確認し、遥に問いかける。立ち止まった遥は「あ……」と表情を曇らせ、一瞬目をそらした後、真っ直ぐにシャルロに顔を向けた。 「……ゴメンなさい……ガザルに……敵わんかった……みんな……」  詳しく聞かずとも、ルエルフ村の男たちが木霊となったことをシャルロは理解し、それ以上の説明を制する。 「そうか……。して? 今、どうなっておるのじゃ?」  遥は知り得る範囲での状況をシャルロに伝え終ると、改めて問いかけた。 「……ほんで、ウチらもこっちに合流しとこ思って。で? エシャーちゃんはどうしたの? まだ自分では動けんやろうもん?」 「あ……そ、それが……」  モンマは応えようとしたが、上手く説明が浮かばず、助けを求めるようにシャルロへ視線を向ける。シャルロも困った様子で目を閉じると、両手で自分の長い顎髭を掴んで言葉をまとめ、自信無さげに口を開いた。 「どこに行ったのか……なんでなのかは分からんが……」  前置きに続き、シャルロは視線を遥に合わせ、事情を説明する。 「地の中から……突然、小さな法力光が滲み出て来てのぉ……それが1つにまとまると……ワシとエシャーの内に語りかけて来たんじゃ……」 「ボクには……聞こえませんでした……」  モンマが遥の視線を感じ、すぐに応えた。 「エシャーさんと、シャルロさんにだけ聞こえる『声』だったそうです」 「ウム……」  シャルロはモンマの言葉にうなずき、話を続ける。 「ワシら『ルエルフ村の者』に向けての言葉だったんじゃな……湖神様の『声』じゃった」  その言葉に、遥がハッと反応した。 「湖神って……先生? 直子先生が?」 「そうらしいのぉ……カガワアツキの『先生』……いや、君らチガセ全員の『先生』が……この世界、そしてワシらの村を創った『湖神様』なんだそうじゃな……」  遥は無言でうなずいた。シャルロは言葉を続ける。 「村の外で……こんな所でお会いするとは思ってもみんかったが……まあ、とにかく、慌て急がれた様子で、ワシらの身体を『依り代』に貸して欲しいと言われてな……」 「依り代って……身体を支配させろっちゅうこと?」  聞き直した遥に、シャルロは手をあげて話を最後まで聞くように示す。 「強大な法力量を持たれる湖神様の依り代は、普通の者じゃ務まらん。また、依り代の内に自己法力が多く充ちておれば、湖神様の法力を受け容れられん。だが小人の 咆眼(ほうがん)を持つワシやエシャーという『器』は、他の者たちよりも大きい……しかも、今、ワシらは2人とも自己法力がほぼ枯渇状態じゃ。湖神様の依り代として選ばれるのに、ワシもエシャーも最適な状態だったんじゃろうな……」 「それで……エシャーさんは湖神様の法力球光に包まれて、どこかに飛んで行かれてしまったんです」  シャルロの話を受け、モンマが最後に現状を伝えた。 「とにかく……分からんことが多過ぎる……。そもそも……」  シャルロは首をかしげながら言葉を続ける。 「なぜ湖神様はワシでは無く、エシャーを依り代に選ばれたのか……」 「・・・」  遥と妖精たちは、互いに伝心を使わずとも「そりゃそうでしょうねぇ……」という思いで一致していた。
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