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『このジジイ、あの後は妙に扱いが良くなってな。アタシの言葉は分からないまでも、案外と手厚い対応をしてくれてるよ。相変わらずニコリともしない、枯れ木の皮みたいな顔のまんまだけどな』
「あっ……それは……良かったですね……」
こちらもまた相変わらず口の悪いひと言に、篤樹は苦笑いで応じた。
「おい! チガセの人間!」
2人の会話にウラージが口を挟む。
「え、あ……はい……」
「コイツは今、『自分の扱いには満足してる』と言ったのだろう? 違うか?」
ウラージは怒っている表情ながらも、どこか「答え合わせ」に期待するかのような雰囲気で篤樹に尋ねた。
「え? は、はい! え? 分かるんですか?」
篤樹の返答に、ウラージは満足そうに口の端を片方緩める。
「ふん! ユフの人間種が使う下等な言語など、数日も聞いておれば理解出来る!」
口調は相変わらずだが「なんだかウラージさん、嬉しそうだな……」と篤樹は感じ、笑顔でうなずきハタと気付く。
そうか……自分の知らない言語だから……覚えようとしてるのか……
「!!」
ウラージは一瞬、息を飲むような驚きの表情を見せた後、含みのある薄い笑みを浮かべエルグレドに視線を向けた。
「ほう……貴様か……まあ良い……。して、あの湖の『膜』からルエルフの村へ入れるというのは、まことなんだろうな?」
「それは今から調査を……」
レイラが即座に答えようとしたが、その声に 被せてエルグレドが応える。
「ええ。間違いなく」
「ちょっと! エル……」
レイラが制するように手を伸ばしたが、それを避け、エルグレドはウラージの前に進み出た。
「『エルフの守りの盾』は、近々確実にお渡しできますよ」
「ふん! 人間種共お得意の『口から出まかせ』と思うがなぁ?」
「あなたと違い、私たちは『嘘』は言いませんよ、ウラージ長老大使」
「存在自体が『嘘・偽り』の貴様が言うか?」
「エル!」
いつもの冷静さを欠いたやり取りに、レイラがたまらずエルグレドの腕を掴んで制止する。
「ふん……盾はいつ我らの手元に戻るのだ?」
ウラージはどこか満足そうな笑みを浮かべ、エルグレドに問う。
「ユフ大陸へ追撃隊が出発する前には、全てが終わってますよ。あなたに一切の負い目を感じる必要も、すぐに無くなるでしょうね」
エルグレドも口元に笑みは浮かべてはいるが、その目は好戦的な敵意剥き出しの輝きを放っている。
「3週間か……では、貴様が嘘つきではないとの証明をそれまでに示せ。『悪邪の子』よ。ルエルフの審判は3週間後だ!」
「良いでしょう。ルロエさんは解放させますよ。 卑怯な『北のエルフ兵』との違いを分からせて差し上げましょう!」
ウラージはエルグレドの最後の言葉にも笑みを消すことなく、しばらく視線をぶつけ合ったままだった。
「行きましょう……隊長さん」
レイラの冷ややかな 促しの声がその場の空気を変える。篤樹は恐る恐るレイラの顔を見た。エルグレドの腕から手を離したレイラの口元は、ワナワナと震えている。
「では、我々は調査に入りますので、これで失礼します」
エルグレドは尚もウラージに視線をしっかりと合わせたまま、言葉だけは丁寧に断りを入れた。
「しっかり務めを果たせ。期限は3週間だ」
「20日以内で……」
バンッ!
改めてウラージに応じようとしたエルグレドの肩をレイラが思い切り叩き、そのまま 外套の 襟首を掴むと、有無を言わせず歩き出した。
「ちょ……レイラさん!」
「黙れ! 馬鹿隊長!」
引きずられるように歩き出した2人の後に、篤樹たちも 慌ててついて行く。篤樹は最後にミスラとウラージへ顔を向け、軽く 会釈をした。エルグレドとウラージのやり取りがケンカ腰の「口論」に感じ、篤樹は内心ビクビクしていたが、一行を見送るウラージの表情は今までに見た中で一番良い笑顔のように感じられた。
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