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問いを解く①
「猫になりたいって言う人、嫌いなんだよね」
スマホゲームに興じる瑠香は零すようにそう言った。
僕はノートにシャーペンを走らせながらそれを意外に思う。彼女は「嫌い」なんて強い言葉を使うようなタイプじゃないからだ。
妙に気になった僕は彼女に尋ねた。
「何がそんなに嫌なんだ?」
「なんていうか、目を瞑ってる気がして」
「むしろそういう人たちの目には猫しか映ってない気がするけど」
「だめだよ、それじゃ」
何がだめなのか、よくわからなかった。
まあ猫しか見えなくなるほど執心してるのはあまり良くないとは思うけど。
「……ふう、やっと解けた」
「じゃあ次はこの長文問題ね」
「悪魔かよ」
「悪魔にならなきゃいけないときもあるんだよ」
瑠香はそう言いながら容赦なく僕の英語の問題集のページを捲る。ずらりと並んだ謎の文章を見ていると眩暈がした。
助けを求めようにも西棟三階の自習室には僕たち以外誰もいない。
それもそうだ。受験を終えたばかりの高校一年生が放課後に自習なんてするはずもない。かくいう僕だって英語の成績が壊滅的で、次のテストで赤点だったら進級できないぞと脅されてさえいなければ今頃遊び呆けていただろう。
そんな時期にもかかわらず瑠香はいつも放課後になると自習室に足を運び、僕に英語を教えてくれる。いくら幼馴染の僕が頼み込んだとはいえ、その優しさはむしろ天使だ。
「……やるよ」
「がんばって」
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