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 暴動が起こった。民衆の望みは無論、「三月を終わらせる」ことであった。  暴動を厳しい建物から見下ろす小太りの男は、ちっと舌打ちした。この男は、善人であった。が、今度ばかりは深いため息をつき、眼下の者どもを軽蔑した。 「希望したのはお前たちだろう。それがどうだ。望みを叶えてやった途端、この有様だ。元に戻せと言う。なんて身勝手な連中だろう。ねえ、そうは思わないかね。私は元に戻すつもりは無いよ。どうだ、その身勝手で私を殺めるようなことがあれば——それならもう、その潔さを理由に、認めてやろうでは無いか」 「あなたは間違っている」  眼鏡をかけた細身の男は、そう言うばかりで、小太りの男にちっとも危害を加えようとはしなかった。 「だから君たちは、救いようが無いのだ。もう良い、勝手にするが良い」  善意に満ちた小太りの男はそこを去り、するとまた季節が動き始めた。そして、二度ととどまることは無かった。
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